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「1次リーグ突破も危うい」の6年前…沈黙の“WBC直前ミーティング”で青木宣親が立ち上がって…いま明かされる「試合までのリアル」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byJIJI PRESS
posted2023/03/08 17:00
大一番のWBC「初戦」。その裏側にはどんなドラマがあるのだろうか。前回大会メンバーが明かす
「イチローさんは、たとえ何も話さなくてもその存在感だけでチームに緊張感を与えられた。あんな風に引っ張ることは自分には出来ないけれど、誰かがチームの舵取りをしなければいけない。みんなを鼓舞する言葉をかけたかったし、どんな形でもチームに貢献したいと思っていました」
Prove yourself right!
青木の言葉を聞いた選手たちの目に、闘志が宿った。次に立ち上がったのは代表チームのムードメーカー、松田宣浩(当時ソフトバンク)だった。
「よっしゃ、行くぞぉぉぉぉ~!」
「熱男」の爆音ボイスに弾かれたように、筒香が、坂本が、山田が……そろって雄叫びを上げる。最高潮のムードのままミーティング会場から移動のバスに乗り込もうとした時、“オチ”をつけた選手がいた。野手最年少の22歳で参加していた鈴木だ。
「お前、なんだその靴!」
誰かが指差した鈴木の足元は、一人だけホテルのスリッパ履き。鈴木らしいうっかりミスに選手たちは爆笑し、少し前までこわばっていた表情はいつの間にか笑顔に変わっていた。
「中田翔はバットを持って目を閉じて…」
攻撃の分析を担当していたスコアラーの志田宗大(現・巨人)には忘れ得ぬ光景がある。それは試合開始を待つロッカールームでの、選手たちの佇まいだ。普段はガヤガヤと賑やかに振る舞っていても、試合まで1時間を切ると、誰が何を言うわけでもなく話し声はぴたりとやむ。ロッカールームにただ静寂な時が訪れるのだ。
「各々がゲームに入るためのルーティンに没頭するんです。菊池(涼介)は耳にヘッドホンを当てて集中している。中田はバットを持って目を閉じて、筒香はどっしりと座って思いを巡らせ、坂本はバットを磨いている……。彼らは各々の世界に入っていくスイッチの切り替えみたいなものを、しっかりと持っている。これこそがプロの姿なんだな、と感心しました」