「教員免許がとれたら、できればなるべく早く監督になりたいんです。自分、高嶋先生を抜きたいっていう気持ちが、すごくあって……高嶋先生、監督48年で甲子園68勝じゃないですか。自分、もう30歳なんで、78までやらないと。実は今、すごく焦ってるんです」

　暮れに、ある野球の人たちの集まりがあって、その「高嶋監督」にもお目にかかっていた。

「そうですか……そんなことを言うてましたか。あいつ、えらい大きく出よったなぁ……」

　偉業の跡を追い始める教え子の思いを、おだやかな笑顔で包み込んでおられた。

2011年の夏の甲子園で。恩師である智弁和歌山高の高嶋仁監督（左、当時）と道端（2／2枚） ©JIJI PRESS

「大阪桐蔭一強」を崩せるか？

　明治安田生命での社業の一環に、アマチュアスポーツの振興というテーマがあって、道端君が中学生の野球部員を指導する機会があった。

「強肩とか、二塁送球1.9秒とか、そういうことばかりが言われてるけど、強肩を生かすのも、タイムを縮めるのも、まず正しいキャッチングをすることから。ショートバウンドを前に止める時は、両ヒザで前にちょっと滑るような感じでボールに入っていって……」

　ちょっと前まで社会人強豪チームでバリバリのレギュラーキャッチャーだったから、表現がフレッシュで分かりやすい。しかも、ユニフォーム姿の実演付きだから、これ以上のリアル感はない。

　そうだ！と思った。ちょっと前まで現役、まだやれる。いや、高校生の中に入ったら、一緒にノックに混じったって、バッティング練習したって、彼がいちばん上手いはずだ。

「ええ、まだぜんぜんできますよ。選手たちと一緒に練習できるのって、考えたら、自分みたいな者のいちばんの武器かもしれませんね。一緒に練習しながら、打つのも守るのも、やってみせて、それを見てもらって。ベテランの指導者の方たちには、経験と説明能力があるかもしれないけど、自分にはまだ体が動くっていうアドバンテージがあります」

　選手たちと一緒に練習しながら、その姿で「指導」できるコーチなんて、すばらしいじゃないか。

　今の高校野球の現場に足りないものがあるとすれば、もしかしたら「そこ」なんじゃないか。若いコーチが珍しいわけじゃない。まだまだ体も動きそうな若い指導者たちが、口だけで「指導」している勿体なさをさんざん目にしている身には、なんだかとってもすばらしいことのように感じている。

　激戦というよりは、「大阪桐蔭一強」みたいな状況が、何年も続いている球都・大阪だ。打倒・大阪桐蔭目指して頑張れ！なんて、浮ついた言葉を贈るつもりはない。

　せめて、「大阪桐蔭、興国二強」目指して頑張れ！

　そんなことを言いながら、近大付属の藤本博国監督や、履正社の多田晃監督や、金光大阪の横井一裕監督あたりから「えこひいき、すな！」と怒られそうだな……と、内心ビビっているひよわな書き手が、ここにいる。

　とはいえ……頑張れ、道端俊輔！　新しい指導の「形」を興国高校のグラウンドで体現して欲しい。