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箱根駅伝“まさかの”13位、シード落ちから1年…強い早稲田大は帰ってくるか? 花田新監督の改革「食事、お風呂、寝起きも学生と一緒です」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2022/12/31 17:00
早大の主将・鈴木創士(左)。花田新監督から「泥臭いことをやっていこうよ」と言われたことを明かした
「上武大学の監督時代は、リクルーティングにも苦労しましたし、時間をかけて選手を作っていくことを学びました。GMOインターネットグループの時は、上武の時とは違って、トップの選手たちの指導をしてきましたが、実業団だと上司と部下という側面も出てきます。コロナ禍の時には、コーチングの資格も取りまして、いろいろなことを勉強しました。早稲田に戻ってからは、私の方から選手の方に寄り添って話し合うスタイルを取っています。これまでの早稲田では、監督の方から歩み寄る形は、あまりなかったのかな、と思います」
花田監督は、選手たちにこう話している。
「指導者は辞書だから、なんでも聞いて欲しい」
辞書。これがキーワードである。
オリンピックで戦い、上武大学では学生をじっくりと鍛えた履歴があるからこそ、どんな疑問にでも答えられる。いまの早稲田なら、好奇心の強い選手ほど、強くなれる可能性がある。
「井川は、LINEが既読にならない時があります(笑)」
そしてもうひとつ、競技面だけでなく、「対人スキル」も監督には必要な要素だ。ここでも花田監督は対話路線を重視した。
特に、入学時に世代トップ級の実力を持っていた井川龍人(4年)とは、話し合いを重視した。
「井川は、いつまでもLINEが既読にならない時があります(笑)。話してみると、それも理由があるんですよ。それと、井川は朝起きるのが苦手なようで、早稲田はそうした生活態度を含め、選手間での評価が定まっていくところがあります。実は、私も学生時代は朝起きるのが苦手でした。いまも合宿所に泊まって、朝練習を見る時は寝坊しないように予防線を張っています。スマホの目覚ましだけでなく、マネージャーに『念のために起こしてね』とお願いしているんですよ。井川には、僕自身もそうしているから、後輩に頼むなり、周りに助けを求めてもいいんだよ、と話しましたね」
元監督「数年後、早稲田は来ますよ」
地脚と、辞書と、対話。
2022年、早稲田は着実に変わりつつある。
そして花田監督自身の表情も、実業団時代よりも柔和になった。
学生と時間を共にすること、そして母校である早稲田への「恩返し」という気持ちが、監督を生き生きとさせているような気がしてならない。
2023年の箱根駅伝は、変化を見せる第一歩となる。レースプランを花田監督はこう話す。