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「今だから言うわけじゃないけど…」5年前、村上宗隆が“繰り上げ1位”だったドラフト…スカウトの証言「村上の評価は清宮以上でしたよ」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/08/18 17:07
2017年ドラフト会議、繰り上げ1位でヤクルトに入団した九州学院・村上宗隆。スカウトが語るその舞台ウラとは?
「あの年は、私たちスカウトが清宮を熱心に推したというよりは、会社(球団)のほうが熱心だった。かなり上のほうから圧がかかっていたっていうか……やっぱり、人気が欲しかったんだろうね。早実、甲子園のスター、お父さんもスポーツマンで有名人。彼自身のキャラもね……太陽って言ったらおおげさだけど、いろんな意味でキラキラした存在だった」
「球界全体っていうか、ドラフトの雰囲気において、清宮幸太郎っていう存在が支配的でした。今年は、清宮でいくしかしょうがないだろ……みたいなムードがあったのは確かですね。マスコミが作ったのか、清宮君自身の活躍がそうさせたのかはわかりませんけどね」
そんな「回顧」が、複数のスカウトから聞かれた。今だから言うわけじゃないけど……と前置きをして、こんな話をしてくれたスカウトもいた。
「バッター出身のスカウトの間では、かかと体重の清宮のスイングスタイルをちょっと心配もしていたんです」
投球に対して踏み込んでいく時、若干、つま先体重ぐらいで踏み込んでいかないと、プロの150キロ前後が当たり前の速球にはインパクト負けするし、外のスライダー系を捉えるのにバットが届かない。
「ホームランの数はすごかったけど(高校通算111本)、打球方向がライトに偏っていることに疑問を持っていたスカウトは、何人もいました。かかと体重だから、体がめくれるのが早くなって、内側にたぐり込むような打ち方になる。高校1年の春からレギュラーなら、真ん中から内寄りのおいしいボールだけ引っ張っても……パワーあるからね、あれぐらいの数にはなるでしょっていうことですよ」
「九州担当のスカウトは“絶対、村上”でした」
ではどうして、7球団という過半数の球団が「1位清宮」でいったのか?
「そりゃあ簡単ですよ、清宮を外しても、村上と安田(尚憲・内野手・履正社高)がいたからですよ。ドラフト直前、清宮には5球団から6球団はいく……と読んでいた。指名が少なくても、5分の1。外れる可能性のほうがずっと高い。私たちの心境としても、外れたら村上や安田にいけるっていうことで、妙な余裕があったぐらいだったから。球団とケンカしてまで、村上や安田にいかなくても、静観してれば、清宮は外れる……待ってればいい」
そして、清宮を外したロッテ、阪神、ソフトバンクは「履正社高・安田尚憲」に、ヤクルト、巨人、楽天は「九州学院高・村上宗隆」にそれぞれ舵をきり、1位清宮から安田、村上以外に繰り上げ1位を求めた球団はなかった。