博多の人・王貞治BACK NUMBER
「奇跡というか」余命3カ月のはずが2軍戦に登板したホークス中継ぎエース…「いつもと変わらず、藤井さんに甘えていた」斉藤和巳の“違和感”
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喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKoji Asakura
posted2026/08/31 11:03
本人は病名を知らされていなかったとはいえ、余命3カ月と言われるなかで2軍戦で登板するまで回復した藤井将雄の精神力は、奇跡とも呼べるものだった
ベッドの脇に置かれていた椅子は、窓とは逆サイドだった。
藤井が、突っ伏したまま、声を掛けてきた。
「おい、そっち側に座ったら、お前の顔、見えないやないか。こっちへ来いよ」
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斉藤は、椅子を窓側の方に移して、そこで向かい合った。
「そんなにキツイの? って思ったんです。だから、その時のことを、いまだにこうやって、鮮明に覚えているんです」
知らなかった“本当の病状”
この時、藤井の体調への“違和感めいたもの”を、初めて感じたと斉藤は振り返る。
「それまで僕は、退院したときの藤井さんしか見ていなかったから。退院しているということは、体調はちょっとでもよくなっているわけじゃないですか。練習もされていたし、それまでと変わらない藤井さんを見てきたという感じだったんですけど、その時、お見舞いに行って藤井さんを見たときに『あれっ?』と思ったのが最初で、でも、それが最後になった感じですね」
斉藤は、最後の最後まで、藤井の“本当の病状”を知らなかったのだ。
「知ってたら、どうやろ? 逆に何か、変な気の遣い方をしていたのかもしれんし、そこは分からないですね。知らないからこそ、いつもと変わらない感じで、藤井さんに甘えていたというところもあったかもしれないし、そこはちょっと分からないですね。そりゃ、知っている人の方が、多分辛いと思いますよ。事実を知っている人の方が、それでずっと時間を過ごしていくって、しんどいと思いますよ」
だから、家族は伏せたのだろう。藤井だって、正式に告知されずとも、自らの“異変”におぼろげながらも、気づいていたはずだ。それでも、弱気な姿は見せなかった。だから、斉藤も気づかなかった。城島も知らなかった。
その強さは、人への気遣いという言葉に転換してもいいだろう。
藤井が、後輩たちにこれだけ慕われていた理由が、そんなところにも見えてくる。
〈つづく〉

