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「まさか日本代表になるなんて」男子バレー小野寺太志の母が語る“身長2mの野球少年”がバレーボールに出会うまで「太志は昔から器用貧乏で…」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byL)Naoya Sanuki/JMPA
posted2024/07/29 17:04
中学まで野球に夢中だった小野寺太志(28歳)。高校からバレーボールをはじめ、日本代表まで上り詰めた
12月の大会に向けて家族でサポートして行こう――そう思った矢先、いく子さんに東京勤務の辞令が下る。
家族もいて、単身赴任はさることながら、ましてや家族で引っ越すことなどできない。「仕事を辞める」と告げたいく子さんに学さんが即答した。
「働いて下さい。家のことは、僕が全部やりますから」
そこから父は、バレーボールに励む息子を全力でサポートした。
「しょうがないよね、父ちゃんの手、でっかいから」
練習の送り迎えや洗濯、掃除、食事。中学校は給食だったが、弁当の日だってある。1つも2つも一緒だからと友人の母親が「太志の分もつくるよ」と申し出てくれたが、「俺がつくる」と宣言。早起きして、決して得意ではない料理を弁当に詰めて持たせてくれた。
いく子さんが、ちゃんと生活できているかと心配して連絡すると、太志が言った。
「父ちゃんの料理、茶色いんだよね(笑)。でも、全部食べているから大丈夫だよ」
夫に聞けば、また違う息子の優しさも見えてきた。
「ご飯の炊き方を失敗して、うまくできなかったらしいんです。でも『これ食べるからいいよ』って全部食べた、って。バレーの遠征に行く時はおにぎりを持って行くんですけど、周りの子と比べてずいぶん大きいから、『太志のデカいな』って言われたらしいんですけど、ニコニコしながら『しょうがないよね、父ちゃんの手、でっかいから』と言っていたみたいで、何だよーいいヤツじゃんって(笑)。夫からすれば中学を卒業したら東北高に入って、寮生活だから(父子2人の暮らしは)半年だと思って頑張ったんだと思いますけど、やっぱりバレーボールに関わるのが嬉しかったんでしょうね」
父の支えと見守る母の思いを受け、宮城県選抜として出場した全国大会ではオリンピック有望選手にも選ばれた。
両親は「本人が『やる』と言うまで『やれ』とは絶対言わない」と決め、最後の選択は太志に委ねた。最初は冗談交じりに「やるしかないんでしょ」と言いながらも、自分の口で「やる」と決めた息子の姿が嬉しかった、といく子さんは振り返る。
才能があるのか、どれほどの選手になるのかわからない。過度な期待なんて寄せていなかったが、まさかこれほどの道を歩むとは……。しかし、ここからさらに驚かされるキャリアを進んでいくことになる。
(後編につづく)