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「健太郎、絶対まだバレーボールやりたいじゃん」“何も言わない”と決めた妻が夫・高橋健太郎の引退を止めた理由〈失意の東京五輪から3年〉
posted2024/07/31 11:03
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Volleyball World
29歳で念願のオリンピック初出場。身長2mを超えるミドルブロッカーが3人揃った日本代表で、文字通り「ブロック」を一番の武器とするのが高橋健太郎だ。
同じポジションの小野寺太志と同様に、中学までは野球少年。高校でも野球を続けて甲子園を目指していたが、右肘のケガで断念。そのままスポーツから離れる選択肢もあったが、米沢中央高でバレーボール部に加入。身長とポテンシャルの高さを評価され、U18日本代表にも選出された。
もともと「バレーボールがしたい」と望んでのスタートではなかったが、高橋のモチベーションとなったのが2020年に開催が決まっていた東京五輪。周囲から「絶対東京オリンピックに出る選手になれる」と期待を受け、ただひたすら、ガムシャラに夢のオリンピック出場に向けて邁進してきた。
しかし、相次ぐケガに見舞われ、目指した東京五輪は最終選考で落選――。
「もうバレーボールを辞める」とまで落ち込んだ高橋を支えるだけでなく、「このまま辞めたら後悔する」と強い言葉で背中を押した人がいる。
筑波大時代に出会い、2019年に結婚した妻の伊織さんだ。
同じ筑波大学の同級生
2人の出会いは大学卒業の前年。伊織さんの友人のバイト先である飲食店で居合わせた。同じ大学とはいえ、体育専門学群の健太郎に対し、伊織さんは国際総合学類で国際政治や国際経済を学んでいて、スポーツは専門外。友人から「彼はバレーボールの選手だよ」と言われても最初は関心がなく、連絡先を交換した後も事あるごとに食事に誘う健太郎に対し、伊織さんの反応は素っ気なかった。
「卒業間近だったし、彼はバレーボールで三島に、私も仕事が決まって横浜に就職する。そもそも拠点が離れることもわかっていたので、これから一緒に、という気持ちになれなくて、誘われても断っていたし、LINEも返していませんでした」