中学3年の夏、野球部での大会を終えた直後、東北高の関係者を通じて年末に行われる全国都道府県対抗中学バレーボール大会へ出場するための宮城県選抜メンバーを選考する合宿に参加しないか、と打診があった。

「バレーボールを見るのも嫌だった」という母とは少々異なり、父は遊び程度だがバレーボールをずっと続けてきた。母校からの誘いとあれば、「息子にバレーをやらせたい」と心も浮き立つ。最初は渋っていたいく子さんも「本人にやる気があるなら」と承諾し、周囲の大人を巻き込んだ“勧誘計画”がスタートした。
　
　いく子さんはまずバレーボールを見せなければ始まらないと「中学の県大会を見に行こう」と仙台市体育館に連れ出した。

　太志は乗り気ではなかったが、その場に当時日本代表セッターとして活躍していた宇佐美大輔氏が現れた。東北高バレーボール部の佐々木繁雄元監督が、同じ東北の秋田県雄物川出身の宇佐美氏に「いい中学生がいるから説得してくれ」と依頼したのだ。

　だが、野球少年だった太志はその存在を知る由もない。周りの中学生がサインや写真撮影を求める東北のスターから「オリンピックとか興味ないの？」と声をかけられても、スマホでゲームをしながら「ないですね」と答えるだけだった。

中学時代の小野寺。当時から2m近い身長だった（写真/母いく子さん提供）

「大輔君から『興味ないって言ってましたよ』って聞いて、『もう、ごめんね大輔君』って私が謝りました（笑）。後になってから、あの時に宇佐美さんが来ていたんだよって太志に言ったら、『その時にちゃんと、こういう人だよって教えてよー』って（笑）。最初は興味どころか、全然やる気もありませんでした」（いく子さん）

「本人がやると決めなければダメ」

　宮城県選抜の選考会の日が迫る。少々、前のめり気味に息子をバレーボールの世界へと入れようとしていた父に代わり、母が言った。

「お母さんは、あなたがやりたいことを一生懸命応援します。野球でもいいし、バレーでもいい。でもせっかくバレーの先生たちから『来てほしい』と言われているんだから、トレーニングだと思って行ってみたら？　そもそも選ばれるかもわからないけれど、もし選ばれたら全国大会が経験できるんだよ」

　それでも「バレー、やったことないし」と渋る息子と、何とかやらせるべく徐々に誘いが強制的になっていく父。その間で「本人がやると決めなければダメ」と制する母。持久戦にもつれ込む前に、折れたのは息子だった。

「わかった。じゃあ行くよ。バレー、やってみればいいんでしょ」

　そうと決まれば練習あるのみ。全くの素人で臨むよりもパスぐらいはできたほうがいいと考えた太志は、周囲の協力を得て練習開始。少し様になり始めた状態で選考会へ向かった。

宮城県選抜メンバーの選ばれた小野寺太志（写真/母いく子さん提供）

　会場は、突如現れた“大型選手”に「誰だ？」といろめきたった。体格が功を奏したのか、初心者であっても好意的に受け入れられ練習も合宿も嫌がらずに参加できた。そして無事、宮城県選抜の一員となった。

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