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優勝目前で阪神フロントがまさかの「勝ってくれるな」発言…甲子園でファン3000人“暴徒化”、巨人ベンチ襲撃事件「阪神ファンのトラウマが始まった日」
text by
近藤正高Masataka Kondo
photograph byKYODO
posted2023/11/04 17:43
1973年に史上初の延長戦ノーヒットノーランを達成。当時、阪神のエースだった江夏豊
10日の試合では、1対5で巨人にリードされていた6回表、後藤和昭のソロホームランに続き、4番・田淵幸一の満塁ホームランで逆転すると、その後は江夏豊をリリーフに送って勝ち、首位を奪取した。
しかし、翌11日の試合では逆に巨人が踏ん張る。4回表まで0対7と大量リードを許しながら、代打で出場した富田勝、萩原康弘らのあいつぐ本塁打攻勢で逆転、その後阪神も巻き返し、8回に再び1点リードするも、その裏にやはり代打の柳田俊郎のソロホームランで追いつき、気がつけば時間切れで10対10の引き分けに持ち込んだ。
阪神フロント「勝ってくれるな」発言
このあと巨人は14日、16日の試合で連敗し、阪神は残る3戦のうち1戦を引き分けでもいい、負けさえしなければ優勝できるというところまで来た。それにもかかわらず、10月20日、名古屋での中日戦を2対4で落としてしまう。
この日の阪神の先発は江夏だった。彼は後年、この試合の前日に球団側から「勝たないでほしい」と釘を刺されたと、ことあるごとに語ってきた。岡田彰布との対談本でも、当時のフロントとの確執を振り返るなかで、この話を引き合いに出している。
それによれば、江夏が球団本社に呼び出されると、球団代表と常務が難しい顔をして座っており、《「なんの話なんやろう」と思ったら、「勝ってくれるな」と言うのよ。勝てば選手の年俸はアップするし、金がかかるからな。優勝争いの2位が一番理想やったんやろうな》。さらに球団代表から「これは金田正泰監督も了解しているから」と聞かされ、《カーッとしてな、テーブルをダンッとひっくり返して帰ってきた》という(江夏豊・岡田彰布『なぜ阪神は勝てないのか?――タイガース再建への提言』角川oneテーマ21、2009年)。
その日、名古屋に入ると、翌日の先発を言い渡された。順当に行けば先発は、このころ中日に8勝して相性のよかった上田二朗のはずだった。《だけど現場としては1日でも早くここで(優勝を)決めたいという気持ちがあったんやろうね》と江夏は振り返る。彼自身も《「早く勝ちたい」という気持ちがあってカッカしてるから、[引用者注:翌日の試合では]結局5回で3点取られ》てしまった(前掲書)。結局、江夏は6回で降板、リリーフした谷村智博がさらに8回に追加点を許し、そのまま試合は終了する。
阪神ファン3000人が“暴徒化”
ゲームセット直前、試合の行われていた中日球場(現・ナゴヤ球場)のすぐ横を、東京駅14時発の新幹線「ひかり351号」が通過していった。その列車には、翌日の阪神との最終戦のため大阪に向かう巨人ナインが乗っていた。