『江夏の21球』で知られるノンフィクション作家の山際淳司は、まだ駆け出しだった週刊誌のライター時代、阪神と巨人の優勝争いを取材していたときに担当のデスクから《阪神はつまずくだろうな》、《そういうチームなんだ、あそこは。期待させておいてころっと転ぶんだよ。［引用者注：球団が］優勝なんかしないほうがいいと思ってるふしもあるな》と言われたことがあったという（山際淳司『最後の夏――一九七三年 巨人・阪神戦放浪記』マガジンハウス、1995年）。山際はあとになって、そのデスクが阪神ファンであることを知った。ファンのあいだでも、阪神の内部事情はよく知られるところであったのだ。

　いまとなっては、阪神のお家騒動は過去のものとなったとはいえ、優勝するかしないかは、チームの心がその目標に向かって一つになれているかどうかで左右されるということに変わりはない。

　今年の岡田阪神は日本シリーズでオリックスに3勝し、いよいよ38年ぶりのアレが見えてきた。前回のアレとそれに続く暗黒時代を含め、阪神の歴史を身をもって知る岡田監督にとって、改めてその経験が活かされるべき、まさに正念場である。

＜《2021年編》、《2008年編》、《1992年編》から続く＞

▼文中にあげた以外の参考文献

「駆けぬトラ　後半戦失速」（『朝日新聞』2021年10月27日付朝刊）
『週刊プロ野球セ・パ誕生60年 第50号　2008-09年』
『週刊プロ野球セ・パ誕生60年　第29号　1992年』
『週刊プロ野球セ・パ誕生60年　第43号　1972-73年』（以上、ベースボール・マガジン社、2009～10年）