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オリックス・山本由伸の“日本ラスト登板”魂の138球は阪神ファンの心も揺さぶった? 岡田彰布監督は「また山本が投げるんやったらのう…」
posted2023/11/05 15:45
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Kiichi Matsumoto
京セラドーム大阪のスタンドに、どよめきと歓声が広がっていく。
8回のオリックスの攻撃だった。2死となったのを確認すると、ベンチから山本由伸投手がゆっくりと出てきて、ベンチ前でキャッチボールを始めた。
「7回くらいにベンチ裏で球数を数えているときに(中嶋聡監督から)“制限はないよ”と言われましたね。ちょっと通りかかって、冗談半分でしたけどね」
こう語った山本が日本のマウンドで投げるのは、おそらくこれが最後になるはずだ。その最終マウンドを完投で締めくくる。そのエースの日本一への強い意志に、オリックスファンだけでなく、阪神ファンすら感情を揺さぶられずにはいられなかったはずだ。
それくらいにこの日の山本のピッチングは鬼気迫り、日本でのマウンドの集大成を感じさせるものだった。
9回138球、シリーズ記録となる14奪三振での完投勝利。ポイントを挙げるとすれば、2度の近本光司外野手との対決で見せた力と運だった。
山本対近本。
1度目の走者を置いてのデュエルは2回だ。この回1死から山本は5番のシェルドン・ノイジー外野手にややシュート回転して真ん中高めに入った真っ直ぐを、右翼スタンド最前列に運ばれてしまった。
「まさかっ」と驚きの表情を見せる。その動揺を見透かしたように続く佐藤輝明内野手にもカーブを右中間に運ばれ、糸原健斗内野手にも154kmを中前安打された。さらに2死から9番の坂本誠志郎捕手に死球を与えて満塁までピンチが広がった。
変化球を多めに…相手のデータになかったと思う
そこで打席に迎えたのが、このシリーズ5戦まで4割7分4厘と阪神で1番のハイアベレージを維持する近本だったのである。
悪夢が蘇る。