井原　どうだろう……30年近く前のことですからね……いつも活躍しているのにパッと思い浮かばないのが森保監督らしさというか（笑）。目立たないけど、黒子としてチームを支えているんですよ。

――現役時代の森保さんに監督としての資質を感じることってありましたか？

井原　やっぱりカズさんやラモスさん、哲さんといった個性のある集団の中で揉まれ、いろんな意見をぶつけられたり、要求されたりして、それを聞き入れながら、ときに捨てたりして、チームをうまく回していくマネジメント力をプレーヤー時代に身に付けていったんじゃないかと思います。性格的にはグイグイ引っ張っていくタイプではなく、協調性がすごくあるので、指導者になっても選手の意見にしっかり耳を傾けているんだろうなと。ただ、プレーヤー時代から、一本芯が通っていると言いますか、曲げない哲学を持っていたので、監督になった今も、締めるところはしっかり締めているんだろうと思います。

ラモス瑠偉や三浦知良、柱谷哲二がいた当時の日本代表　©BUNGEISHUNJU

岡田さん「代表監督は応援してくれる人がいたら、同じ数だけ批判する人もいる」

――現役時代と指導者になってからで、森保監督の印象は変わりましたか？

井原　いや、変わらないですよ。相変わらず謙虚ですし。誰としゃべるときでも、敬語を使って敬意を示してくれたり。ただ、指導者としていろいろな経験から得た自信は、半端じゃないくらいあるんじゃないかと思います。プレーヤー時代はどちらかと言うと、周りの意見とか批判とか、そうした重圧に耐えられるタイプではなかったと思うんです。でも今は、それを平然と受け止め、堂々としている。代表監督のプレッシャーは半端じゃないと思うんですけど、自分の中でコントロールしながら、やれている感じがします。人間としての器量が大きくなったと言いますか、メンタルの強さを感じるところがあります。

――井原さん自身もアビスパ福岡を率いた経験があるし、1993年のアメリカW杯予選、“ドーハの悲劇”のときのオフト監督や、1998フランスW杯予選のときの加茂周監督、岡田武史監督の苦悩を間近で見ていて、代表監督のプレッシャーは相当なものだと。

井原　僕が感じていたプレッシャーなんて、比じゃないと思います（笑）。日本代表は、日本全国のファン・サポーターから、いいだの、悪いだの、いろんなことを言われますから。岡田さんも以前「代表監督は、応援してくれる人がいたら、それと同じ数だけ批判する人もいる」とおっしゃっていて。しかも、昔と違って今の時代は、そうした情報がいろんなところから入ってくるじゃないですか。そのひとつひとつに対して反応していたらやっていられないポジションですよね。

――しかも昨年はコロナ禍で代表チーム、オリンピック代表チームの強化がままなりませんでした。

井原　1年間、活動ができないストレス、オリンピックやW杯最終予選がどんどん迫ってくるプレッシャーを考えると、相当苦しいと思うんですよ。W杯予選だって、ホーム＆アウェイではなく集中開催になるのではないか、という噂が出てきて、先が見えないなか、臨機応変に対応して、なおかつ結果を出していかなければならない。それでも文句や言い訳を一切言わず、平然と受け止めながら、自分の信じる道を突き進んでいる。その姿は同じ指導者として尊敬しますし、かつてのチームメイトとして、本当に頑張ってほしいと思います。

（【前回を読む】“アジアの壁”井原正巳が振り返る＜16歳の冨安健洋に福岡で初めて会った日＞「僕が柱谷哲二さんから学んだように…」　へ）