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「今年は甲斐で行きます」阿部慎之助監督も明言…巨人はなぜ甲斐拓也捕手が必要だったのか? “甲斐ノート”でデータ蓄積「本当に力を発揮するのは…」
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鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2025/03/10 17:00
今季から巨人に加入した甲斐拓也捕手。阿部慎之助監督は正捕手としての起用を明言している
「まだまだ彼のデータ蓄積は始まったばかりです。オープン戦だけでなく、シーズンが始まってからが実は本番で、真剣勝負の中で投手には様々な変化が生まれる。それをその都度、自分の印象と数字的なデータも書き足して彼なりにノートを完成させていく。もちろんセ・リーグの打者のデータも蓄積されていく訳ですから、本当にそのデータが揃うのは秋くらいになると思いますね」
同コーチが「本当に力を発揮するのは秋になって」と語る理由はまさにそこであり、阿部監督が周囲の様々な声を押し切って、甲斐を獲得した目的もそこにあったはずなのだ。
このオフの阿部監督の取材で、甲斐に関する話をした中で印象に残った言葉があった。
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「彼は勝っているからね。そういう経験もこのチームには大事だと思います」
この短い言葉が意味することは何か。勝つことを知っている、最後まで勝ち切る経験を持っている。クライマックスシリーズから日本シリーズとポストシーズンを勝ち抜く、勝ち抜いた経験のある司令塔が欲しかったということだと思う。
巨人は2012年を最後に日本一からは遠ざかっている。その間に5度のリーグ優勝はしているものの、13年は楽天に、19年と20年は日本シリーズでソフトバンクに敗れ、14年は阪神に、昨年はDeNAにクライマックスシリーズのファイナルステージで敗退した。
昨年の主戦3捕手の中でベテランの小林が入団したのは、最後に日本一となった12年の翌13年のドラフトでのことだった。3人の捕手の誰もが、日本一の経験はない。最後まで勝ち切った経験がない捕手たちだったのである。
阿部監督「今年は甲斐を主戦で行きます」
そして阿部監督にとっては忘れもしない甲斐の記憶がある。19年、20年と日本シリーズに進出しながら、2年連続でスイープされた。あのときソフトバンクでマスクを被っていた甲斐の姿である。
「今年は甲斐を主戦で行きます。それは決めています。彼を休ませるときに、他のキャッチャーを起用する。それでいきます」
改めて捕手の起用方針を聞くと阿部監督ははっきりとこう語った。
開幕までにどれだけ「甲斐ノート」が埋まっていくのか。そして開幕して勝負の秋までにそのルーズリーフがどれくらいの厚みになっているのか。それが揃ったときに、巨人というチームがここ10年以上も越えられなかった壁を越える武器を手にいれる。
甲斐の獲得は日本一奪回、勝ち切るための切り札としてであったことは間違いない。

