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「今年は甲斐で行きます」阿部慎之助監督も明言…巨人はなぜ甲斐拓也捕手が必要だったのか? “甲斐ノート”でデータ蓄積「本当に力を発揮するのは…」
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鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2025/03/10 17:00
今季から巨人に加入した甲斐拓也捕手。阿部慎之助監督は正捕手としての起用を明言している
「キャッチャーってピンチの場面になったり、勝負所の局面になったときに、少し変わってしまうことがあるんです。それは投球を受けるテンポであったり、サインを出すタイミングであったり、ボールをピッチャーに返球するリズムであったり……そういうことってどうしても出てしまうことがある。でも甲斐はそれがない。どんな場面でもそういうものが全く変わらない」
どんなピンチになってもキャッチャーが全く変わらずにどっしりとしているということで投手は落ち着くが、それだけではない。8人の野手と向き合っているキャッチャーがいつもと変わらないリズムで動くことで、チーム全体も地に足がついてグラウンド全体が安定感を維持することができる。
生前に甲斐のことを高く評価していた元ヤクルト監督の野村克也さんがよく説いていたグラウンド上のリーダー、司令塔としての捕手の役割だ。その役割をしっかり果たせるところが、キャッチャー・甲斐の一番の持ち味だと村田コーチは評価する。
「甲斐ノート」の内容とは…
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そしてその背景となっているのが甲斐が練習、実戦を通して積み上げていく膨大な独自のデータとそれを活用したコミュニケーション力だという。
キャンプやオープン戦でマスクを被った甲斐がブルペンやベンチでノートに目を通している姿が、何度も目撃されている。
東京五輪の時にも話題となった「甲斐ノート」である。五輪では対戦する相手チームもまったく未知数で、村田コーチが収集、分析したデータを元に、甲斐自身がビデオを観て自分なりの印象を、そのノートに書き加えていく作業をしていた。
「例えば『外角低めは大丈夫』というデータがあったとしても、バッターによってカウントで変わってくるケースがある。ここが打てないという打者でも、カウントによってはこういう風に(バットが)出るとか。そういうデータも入れて、9分割のチャートも揃えました」
甲斐がこう振り返ったように、あの時は未知の相手打者を分析したノートだった。しかし巨人移籍を機にキャンプ、オープン戦を通じてやっているのは、ほぼ初めて受ける未知の投手たちを自分なりに分析し、それを書き留めるための新しいノートを作りだった。
「ルーズリーフに投手別に項目を立てて書き込んでいます」
本人はノートの内容をこう説明する。
「今はそれぞれの投手のボールの曲がりの特徴であったり、そういうことが中心ですね。実戦に入ってやっぱりブルペンとは球筋自体も全く違う。まだオープン戦も始まったばかりなので、いろんなことをシチュエーション別に書き留めています」
ブルペンで見てきたそれぞれのストレート、変化球の球筋をベースに、オープン戦では実戦に即した新しいデータを書き加えていく。例えばこの投手は得点圏に走者を背負ったピンチの場面で力が入ると多少、こういう傾向が出てくるとか、球数を投げて疲労が出てきたときにはこういう変化が出てくる、などということだ。そうやって試合で気づいた変化点をこのノートに蓄積していく。
甲斐ノートのデータ蓄積は始まったばかり
その姿を見ている村田コーチは、この「甲斐ノート」の意味をこう語る。

