「勝っても抑えても淡々としているのは、彼は自分に自信があるから。自分はやることをやってきたから抑えます、と。だから逆にロッカーなどで悔しがっているときもあります。表情を見れば一目瞭然。大の負けず嫌い。それはすごく大事なことだと思います」

思い出す“あのドラ1”のプロ初登板

　重田と話をしたのは、デビュー当日の朝だったが、こんなことも言っていた。

「もちろん勝ってほしい。抑えてほしい。最初の一歩で勢いづいてどんどん成長していく選手もいます。ただ、彼は悔しさも力に変える反発力がある選手です。だから結果がどっちに転んでも悠伍にとってすごく意味のあるデビュー登板になると思うんです」

　倉野コーチも「僕もめちゃくちゃ良い結果になるか、めちゃくちゃ悪いか、どちらかの方がいいと思っていた。中途半端に何となく抑えたというのが一番マイナスかなと。変な言い方ですが、その意味ではよかった」と柔和な表情を浮かべた。

　3回6失点KOのスタート。しかし、先輩たちが奮起して逆転してくれたおかげで黒星はつかなかった。「6点ビハインドで負けがつかないところに、前田悠伍っていうのを感じましたけどね」と小久保監督も思わず白い歯を見せた。

　そういえば、こんな高卒ルーキーをかつて、この日と同じドームで見たことがある。2007年3月29日。当時、楽天のルーキーだった田中将大がソフトバンク戦で初登板初先発を果たすも、1回2/3を投げて打者12人に対し6安打6失点とやられたのだが、その後味方が同点としたことで黒星を免れたのだった。

楽天監督時代の野村克也 ©Tabun Matsuzono

　のちにシーズン24勝0敗という大記録を成し遂げ野村克也監督をして“神の子”と言わしめた大投手を連想させるデビュー戦だったのは、もしかしたら野球の神様の暗示なのだろうか。