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ドラフト1位・前田悠伍“ショックのプロ初登板”直後「ソフトバンク広報に連れられて…」記者が見た“異例の対応”ウラ側…野村克也の言葉を思い出す
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKYODO
posted2024/10/03 06:01
大阪桐蔭出身のドラフト1位・前田悠伍がプロ初登板を果たした
関係者が続々証言「19歳の素顔」
昨年のドラフト指名時に関西地区担当の稲嶺誉(いなみね・ほまれ)スカウトが「高校生なのに、和田毅と話しているような錯覚に陥る。それくらいしっかり者というか大人びている」と教えてくれていたが、入団発表や1月の自主トレ取材の頃からまさにその通りだと思っていた。
最初の練習取材時、そのキャッチボールにまず惚れ込んだ。意識を高く持って取り組んでいるのが伝わってきた。「キャッチボールが一番難しい。自分はブルペンよりキャッチボールの中で確認するようにしています。平地で体重移動をしないといけない分、自分のクセが出る。そのクセを直すのもキャッチボールでできます。それが簡単そうで難しいんです」。投げ終わりの立ち姿にも惚れた。腕を振り切った際、右足一本でキレイに立つ姿勢を毎球キープするのだ。踏み出した足でしっかり立つというのは、工藤公康元監督が投手陣に口酸っぱく言っていた。前田悠にその話を向けてみると「良い形で投げられれば自然と右足に乗ると思います。僕が意識するのは足の裏。地面を掴む。悪いときは三塁側にズレちゃうのでそこは確認のポイントにしています」と答えた。大学や社会人から入団するルーキーですら最初の自主トレは力任せのアピールになりがちなのだが、前田悠の冷静さと“考える力”に驚かされた。
また、前田悠の小学生時代を指導した人物は「悠伍は緊張する感じもなかったし、言われたことも淡々とやるタイプ。前に出てヤンチャする方ではなかったです。かといって大人しいだけでもなく、みんなの輪の中に入って、時にはイタズラも仕掛けるような子でしたね」と話す。その後も彼の成長を少し遠くから見続けた中で、一つ感じたことがあるという。
「大阪桐蔭に入って、上級生になった時に『こんなにしっかりしてたっけ?』と感じたことがあります。1学年上に今はベイスターズにいる松尾汐恩君がキャッチャーにいた。彼の存在感はすごかった。悠伍にすれば『何をやってもなんでも受け止めてくれる』お兄ちゃんみたいな存在だったと思います。彼がチームから抜けて、自分が一番上の代になるとキャプテンも務めた。大阪桐蔭のキャプテンですからね。勝負に対する心構えも振る舞いも一気に変わったのかなと思いました」
ソフトバンクでファーム球団広報を務める重田倫明も前田悠の素顔を知る人物の一人だ。重田は昨年まで投手だったこともあり、選手の心理をよく理解している。