2点リードされた3回無死一塁で再戦。伊藤はまた内角にミットを構えた。しかし、東明が投じた初球のストレートはシュート回転し、ボール2個分ほど真ん中に吸い寄せられた。内角を警戒していた大谷が見過ごすはずがない。左翼上空を高く舞い、スタンドに吸いこまれた。東明はこの被弾で降板し、翌日、大阪に帰った。そのまま復調できず、このシーズンは10連敗と散々だった。

「大谷君に厳しくいけ、内角を使わないと抑えられないということでしたが、意図通りに投げられませんでした。ある程度のレベルになると、打者は（失投を）見逃してくれません。打たれた3発は、ちゃんと打たれているわけで、全部、投げミスでした」

　東明は大谷と戦う以前に自分と戦っていた。直球がシュート回転してしまう悪癖に手を焼き、マウンドではそのことに気を取られていた。そんな弱みにつけこむところが大谷のスゴさでもあるのだが、東明の課題が露呈した被弾になってしまった。

「シュートさせないようにと考え込んでしまってるから、余計にシュートしているのだと思います。今思えば、シュート回転を極端に嫌がったのがちょっとよくなかったんじゃないかなって」

大谷翔平に浴びた3本のホームランはすべて「投げミス」だったという　©Shigeki Yamamoto

　生真面目な性格で、完璧を求め過ぎるところがあった。直球がシュート回転してしまう悪癖を防ごうとすれば、意識は自分の体へと向かう。その分だけ、打者と戦う気持ちは薄れ、球威もそがれてしまう。そんなごまかしが利く相手ではなかった。

10年前、東明大貴が大谷翔平と投げ合った日

　東明は大谷と一度だけ、会話をしたことがある。ある年、ビジター戦で訪れた札幌ドームのトレーニングルームで調整していたときだった。

「僕が社会人時代から知っている選手が日本ハムにいて、そこに大谷君がいたんです。ちょっと喋ったくらいで、なにを話したのか記憶にもないくらい。でも、好青年でした。挨拶もちゃんとしてくれましたしね」

　間近で見て、目を引いたのは筋骨隆々の肉体だった。搭載しているエンジンの大きさがまるでちがった。そんなスケールの大きさを痛感したのは14年の秋である。

日本ハム時代の大谷翔平。2014年9月、神戸でのオリックス戦で　©Hideki Sugiyama

　9月5日の2回、浮いたフォークをほっともっと神戸の左翼に放り込まれた。大谷に打たれた最初のホームランだった。

　その8日後の日本ハム戦。大谷は札幌ドームの打席に立たなかった。その代わり、交互に先発マウンドで投げ合ったのである。

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