「打つ方と投げる方、ふたつの実力が認められているわけですからスゴイですよね。ただ、大谷君が投げたからといって、メディアやファンが気にしているほど、選手は気に留めていないものです。ただ、イチ投手として先発してきていると見ていましたから」

　8日前。大谷は9号本塁打を放ち、メジャーリーグでもベーブ・ルースしか達成していない「10勝＆10本塁打」に王手をかけたと騒がれた。そして、すでにプロ入り初めて10勝に達していた大谷はこの日、勝負どころでフォークを多投し、マウンドで躍動した。

《東明さんもいい投球をしていましたけど、負けないように粘り強く投げました》

　6回まで0-0の投手戦になった。東明は7回途中に降板するまで1失点と奮闘した。だが、大谷は9回を完封して11勝目。打席でも、マウンドでも凌駕され、2戦連続で「二刀流」の引き立て役を演じることになってしまった。

「パパは大谷君にホームラン打たれたことあるんだよ」

　東明は35歳になったいまも、現役の頃と変わらずスリムな体型を保つ。子どもをもつ父であり、テレビに映るドジャース大谷のことは子どももわかっている。

「パパは大谷君にホームラン打たれたことあるんだよ」

　そう伝えたことがあるという。あのとき、大谷と同じ土俵で確かに組み合い、歯を食いしばって踏ん張った。逃げずに挑んだ自負があればこそ、我が子にも胸を張って話せた。

「いま、普通に生活していて選手だったことを意識することはありません。でも、いろんな試合やいろんなバッターに投げたこと、負けて勝てなかったこと、それこそ、大谷君に3本打たれたことは悔しかったですが、いい経験だったと思っています」

　テーブルに置かれた大谷のNPBでの全ホームランを示す紙を見て、東明は遠慮がちにいった。

「コレ、あとでコピーしてもいいですか」

　日本でだれよりも打たれた苦い記憶なのに、誇らしげだった。ホームランを打たれた大谷に対し、その後の対戦で立て続けに三振を奪った。やられたらやり返す。そんなシーンは何度もあった。たとえ負けようとも、持てるすべてを出し尽くした。それが7年間のプロ野球人生を駆けぬけた男の姿だった。

＜つづく＞

#2に続く

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