落合と斎藤、この2人で勝った試合だった

　斎藤は6回に1点は失ったが、5イニングを投げて3安打無四球、5奪三振と中日の勢いを完璧に堰き止めて、7回から桑田真澄投手へとバトンを渡したのである。

「あの試合はバッターは落合、ピッチャーは斎藤。この2人で勝った試合だった」

　後に堀内はこう語っている。

「この戦いは巨人軍にとって必然だったかもしれません」

　監督の長嶋は巨人の歴史の中での〝10・８決戦〟をこう位置づける。

「球団創立60周年という節目の年に何かが起こる。それこそが巨人軍だと思う。そして巨人軍はこういう試合で必ず勝ってきました。やっぱりそれは巨人に脈々と受け継がれてきた伝統だからです」

“10.８決戦”とは巨人が巨人であることを示した戦いであり、その戦いを勝利へと導く原動力となったのが斎藤だったのである。

　あれから30年。今年で球団創設90周年を迎えた巨人は、グラウンド内外でも記念イベントなど様々な行事を行っている。つい最近には歴代ベストナインのファン投票も行われ、まもなくその結果も発表されるはずだ。

　また開幕に合わせて東京ドームの関係者通路の壁には、メジャーの球場を模して巨人の歴史を作った名選手たちの姿が描かれた。

　一塁側と三塁側を結ぶ通路には歴代の名選手の姿。そして選手が出入りに使う一塁側通路には、その中でも特に功績の大きかった選手たちの姿を見ることができる。選手駐車場からロッカーに向かって通路の右側には王貞治、長嶋茂雄の勇姿がある。左側には沢村栄治、黒沢俊夫に川上哲治と永久欠番の選手たちが並び、藤田元司、金田正一（永久欠番）、堀内恒夫、江川卓とレジェンドたちのプレー姿が活写されている。さらには前監督の原辰徳や現二軍監督の桑田真澄、松井秀喜、上原浩治に元監督の高橋由伸、そして現チームから阿部慎之助監督に坂本勇人内野手、菅野智之投手に岡本和真内野手と続いていく。

　だが、そこに斎藤の姿はない。80年代から90年代の巨人を支え、そのディケードを代表する投手であるはずなのに、だ。

控えめな斎藤のセリフ「僕みたいに未熟な者が…」

　斎藤が11試合連続完投勝利を飾った試合後の会見はこんなセリフで始まった。

「すごいという実感が分からないんです。僕みたいな未熟な者が鈴木さんを追い越すなんて、何か申し訳ないですね」

記録達成後も謙虚な姿勢を貫いた斎藤　©︎KYODO

　そんな控えめな斎藤だから、誰にも破られないであろう「アンタッチャブル・レコード」に始まり、あれだけの実績、タイトル、記録を残し、何より巨人の屋台骨をその右腕で支えてきたとしても、あの壁の中のレジェンドには入れないのだろうか――。

　この事実を話すと当時を知る多くの関係者、OBも斎藤がいないことを訝る。巨人の歴史を知る多くの人々にとって、斎藤雅樹は間違いなくあの時代の特筆すべきレジェンドだからである。