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サムライブルーの原材料BACK NUMBER
「1回のチャンスを私にくれ」ラモス瑠偉が語った“傷だらけのループシュート”の真相…Jリーグ30年史に残る伝説のゴールはこうして生まれた!
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2023/12/18 17:02
Jリーグ“BEST GOAL"にも選ばれた伝説の芸術ループシュートにいたる真相を明かしたラモス瑠偉
その声が期待を含んでいることは感じた。だからキッパリと強い口調で言った。
「無理です。申し訳ない」
そう言って頭を下げると、思ってもない言葉が返ってきた。
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「よく頑張った。本当に頑張った。だがチャンピオンシップの大事な試合だ。加藤久も最後の試合になる。(最初の)5分だけ試合に出てくれ」
5分の限定出場なんて聞いたことがない。ただ、そう言われた以上はやるしかなかった。現役引退を表明した読売クラブ時代からの盟友・加藤のラストマッチが、ラモスをもうひと踏ん張りさせた。深夜になっても患部を温めて冷やして、を繰り返して当日を迎えている。
チームの勝利のために5分間やれることをやる。
痛み止めの注射を2本打って出場
筋肉が切れても構わないと痛み止めの注射を2本打ち、ウォーミングアップもしないまま国立競技場のピッチに立った。日本代表で一緒に戦った風間八宏、森保一、高木琢也らもいる。第1戦に勝ったとはいえ「サンフレッチェは相当強い」と気を引き締めていた。
実際、試合が始まってみると広島での試合以上に体が重かった。ずっと動いていないのだから仕方がないとはいえ、自分にキレそうだった。北澤から受けたパスをワンツーで返そうとしたが、ミスをしてしまう。ショックだった。
「悔しいけど、こんなプレーじゃダメ。5分が過ぎたと思って松木(安太郎監督)やネルシーニョのほうを見ても、目を合わせてくれない。いや、ほかのメンバーやスタッフもそう! 後で聞いたら、目を合わせるなってみんな言われていたらしい」
「1回のチャンスを私にくれ」
動けないところは北澤やビスマルクらチームメイトがカバーする。手負いのラモスがいるだけでチームが引き締まっていたのは間違いなかった。スコアレスのままハーフタイムを迎えた。さすがにここで終わりかと思いきや、ネルシーニョから「あなたはピッチに戻るよ」と告げられる。痛み止めの注射をもう1本追加した。そして覚悟を決めた。