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《2023ドラフト新潮流》なぜ「社会人」より「独立」だった?「総合力は社会人ほど高くなくても…」スカウトが惹かれた“独立リーグの魅力”とは?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/11/18 17:02
メディアを賑わせた錚々たるメンツが並ぶ「ドラフト2位指名」に今年は2人の独立リーグ出身者の名前が
試合後、その選手はこんなことを語った。
「もちろんアウトになることはわかってました。僕が二塁に突っ込んだのは、僕の二塁までの全力疾走のタイムを、ネット裏のスカウトたちに測らせたかったからです。自分のとりえは“足”しかありません。それをアピールするには、あの方法しかなかったんです」
その選手は、三輪正義といって、その後、内野手のバイプレーヤーとして、プロ球団・ヤクルトで渋く活躍した。
前出の社会人チームの監督はこう言う。
「僕らのチームに入ってくる大学生、高校生たちも、みんなプロを目指して入ってきますが、社会人は勝つことが目的ですから、投手にまず要求するのは“コントロール”かもしれないし、こういう場面で打たせないと勝負強さは身につかないと知っていても、送りバントのサインを出すこともある。結果として、チームは勝てるようになっても、選手個人のスキルや長所を十分に伸ばしきれないって現実はあるかもしれない」
なぜスカウトは「社会人」より「独立」を選んだのか…?
一方で、独立リーグの監督さんは、こう語る。
「今の三輪君の話が象徴的ですよ。独立なら、スピード上げようと思ったら、一日中そのためのトレーニングばっかりやることもできる。選手としての総合力は社会人ほど高くなくても、何か一つ、二つ、飛び抜けたものを獲得できる環境ではありますからね。それが、結果的に、プロのスカウトから見れば、魅力的に映るんじゃないですかね」
何か一つ飛び抜けたものを評価されるということは、選手として必要なものを身につけていない部分もあるということだろう。そこを「伸びしろ」とみるのか、欠陥とみるのか。それは、プロ側の判断ということになる。
過去3年、支配下ドラフトで指名された独立リーグの選手は、わずか4人。
その中には、今季、阪神のリリーフ陣の一角として奮投した石井大智(高知ファイティングドッグス)のような成功例もあるが、いまだファームで苦闘している選手もいる。
独立リーグのレベルがプロから認められるかどうか、今年の支配下ドラフトからプロへ巣立つ6選手の成長ぶり、活躍ぶりが大きく左右するかもしれない。
毎年のように、メジャーへはばたく逸材たちがいる一方で、選手の頼もしい供給源として、独立リーグの進化に期待している。