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阪神岡田監督がファンの野次に激怒「誰に向かって言っとんねん!」歴史的な失速で「Vやねん」事件も…15年前、第1次岡田時代はこうして終わった
text by
近藤正高Masataka Kondo
photograph byJIJI PRESS
posted2023/11/04 17:41
2008年10月20日。CSで中日に敗れた試合終了後、泣きながら外野のファンにあいさつをする阪神の岡田彰布監督
じつはこのとき新井は腰を痛めており、五輪に送り出すにあたっては岡田監督がトレーナーを同行させ、けっして無理はしないよう注意を促していたという。だが、帰国した新井は骨折が判明、離脱を余儀なくされる。結局、8月に阪神は9勝11敗で負け越す。その間、巨人が12勝7敗で猛追し、9月に入ってもその勢いは止まらなかった。
追いかけてくる巨人の迫力に、岡田は恐怖を覚え始める。傍目から見ればたしかに巨人にはまだかなり差をつけていた。気の早いスポーツ新聞社が『Vやねん!タイガース 08激闘セ・リーグ優勝目前号』と題するムックを出したのもこのころである(このシーズン後、ネット上では「Vやねん」がプロ野球における死亡フラグを示すジャーゴンとなった)。
ファンの野次に「誰に向かって言っているんや!」
9月9日からの甲子園でのヤクルトとの3連戦ではすべてサヨナラ勝ちし、ファンを沸かせた。とりわけ劇的だったのは9月11日の試合である。この日、岡田は二軍にいた今岡誠を3カ月半ぶりに引き上げ、3番・三塁でスタメン入りさせた。今岡はちょうど誕生日ということもあり、岡田にはひらめくものがあったという。これが吉と出て、1回の初打席でいきなり2ランを放ち、最後も今岡が四球を選んでサヨナラ勝ちとなったのだ。
だが、岡田は心の底からは喜べなかった。冷静に試合を分析すれば、1回と9回しか点が入らない。走者を出すのは2死から。勢いに乗り、上昇するような内容ではなかった。岡田は長いつきあいの記者に、「こんなんで喜んでたらアカン。こんなん、ウチの野球やないからな」と本音を漏らしたという。
巨人には3ゲーム差まで縮められると、9月19日からの東京ドームでの直接対決で連敗し、ついに首位に並ばれてしまった。巨人はこの3連戦を含め、9月24日まで引き分けを挟んで12連勝し、ラストスパートをかける。
このころの岡田は、チームの状態に加え、私生活で長年飼っていた愛犬が亡くなったこともあり、かなり苛立っていたようだ。10月4日の神宮球場でのヤクルト戦、引き分けに終わった試合終了後、三塁側フェンスに沿ってクラブハウスに引き上げるとき、一人の阪神ファンから非難の声を浴びせかけられる。そこで飛び出した「おまえは選手の信頼を失ってんだよ!」との言葉に、岡田は我慢ができず、つい、フェンス越しに「ここに降りてこい。誰に向かって言っているんや!」とやり返してしまい、大騒ぎとなる一幕もあった。このときの自身について岡田は《そんなに激しく怒らなくても……。自分でそう思ったけど、やはり焦りやいら立ちやったんやろな》と、のちに省みている(『ベースボールマガジン』別冊薫風号)。
「だから今季限りで監督を辞める」
10月8日、阪神は巨人との最終対決で敗れ、とうとう首位から陥落し、巨人にマジック2が点灯した。