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村田兆治が逆ギレ…ノーサインなのに「何投げさせてるんだ!」理不尽を受け入れたロッテ名捕手が語る“落合博満が電撃トレード後”のチーム事情
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byKYODO
posted2023/08/04 11:05
かつてロッテでプレーし、村田兆治を「ノーサイン」で捕球していたことで知られる袴田英利
〈大阪遠征出発前に、妻(淑子)に「防御率1位になれなかったら引退する」と宣言していた。〉(著書『村田兆治の直球人生』/91年7月発行)
初回、いきなり4番の藤井康雄に2ランを浴びてしまう。ベンチに帰ると、村田は大声で袴田を叱責した。
「おまえ、何投げさせてるんだ! しっかり放らせろ!」
「それがキャッチャーの仕事ですから」
怒りの村田がベンチ裏に姿を消すと、傍らにいた有藤監督が不思議そうな表情で「ノーサインじゃないのか?」と呟いた。袴田は静かに「そうですよ」と頷いた。あからさまな逆ギレに腹は立たなかったのか。
「そういう思いもありましたけど、村田さんの性格をわかってますし、『はい』と返事しました。ピッチャーに気持ち良く投げてもらうのが、キャッチャーの仕事ですから」
抑えきれない感情を吐き出して冷静になった村田は2回以降、毎回のようにランナーを出すも、粘りの投球で2失点完投勝利。2.50として最優秀防御率を確定的にした。もし袴田が怒りを受け止めなかったら、タイトル獲得はなかったかもしれない。
「(法政大学の同期生である)江川卓は得点圏にランナーが行くと本気で抑えに来た。大学の時から『手抜き投法』と揶揄されましたけど、今の表現でいえば『ギアチェンジ』をしていた。どのピッチャーも、打者によって抜く場面はある。そうしないと完投できないですから。でも、村田さんは初回から9回まで全ての打者に全力投球していました。一切、手を抜かなかった」
前年、江川や村田に匹敵しそうな剛腕投手が入団していた。ドラフト1位で尽誠学園からやって来た伊良部秀輝である。袴田は、ポツリと呟いた。
「アイツ、霊感が強いらしいんですよ」
それは静岡・掛川での出来事だった。
〈つづく〉