甲子園の風BACK NUMBER
高校野球“波乱の夏”の声もあるが…「常連校に勝つのはやっぱり難しい」甲子園経験者の私立高校監督が明かす、シビアなスカウト合戦
posted2023/07/31 17:59
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph by
Asahi Shimbun
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今年3月、埼玉県立大宮高校のグラウンドで大宮高校、開成高校、駿台学園高校の野球部による練習試合が行われた。公立と私立、埼玉と東京と、一見なんの関係性もないように思える3校だが、じつは共通点がある。3校すべての監督が東大野球部のOBなのだ。
中でも注目は、駿台学園高校の選手とともに大宮高校グラウンドに乗り込んだ三角裕監督(1983年卒部・県立浦和)だ。三角は、大学卒業の翌年の1984年から13年間にわたって伊奈学園総合高校(以下、伊奈学園)の監督を務め、1990年には選抜甲子園大会に出場。1997年に東大野球部の監督に転じて、2004年まで采配を振っていた「THE監督」である。ちなみに、三角が監督に就任した年の新入生として東大野球部に入部したのが、現大宮高校野球部監督の蒲原弘二郎(2001年卒部・東邦大東邦)だ。
「他の部活と共用のグラウンド」
東大野球部の監督を退任した後の三角は、しばしの充電期間を経て、2008年に駿台学園からのオファーを受けた。
「駿台学園はスポーツに特化している学校ではないので、『何年で甲子園に導いてくれ』という指令はなかったですが、『やるからには甲子園を目指します』とお返事しました。グラウンドは他の部活と共用で40メートル四方しか使えず、練習環境は恵まれているとは言えませんが、それでもやりようはいくらでもありますよ。野球は、投げる、打つ、走るの個人練習が重要だし、それはグラウンドが狭くてもできる。しかも狭いということは玉拾いがない分、逆に効率がいいとも言えます」
実際に、その環境で練習を続け、2011年秋季東京都大会ではベスト4、2013年夏の東東京大会では、ベスト16だ。伊奈学園を甲子園に連れていき、東大野球部を8年率いた指導者ゆえ、その経験値と手腕は間違いない。昨今では週2回グラウンドを借りて練習環境はさらによくなっており、甲子園への切符は、手が届くところにありそうだ。
「野球がマイナースポーツ化しているんです」
だが、三角の目には、まだまだ足りない。東東京大会の出場校は毎年140校ほどで、(今夏は早期敗退が目立ったものの)二松学舎大附、関東一、帝京といった甲子園常連校が抜けた存在になっている。このトップグループに入ることこそが、甲子園への道なのである。