甲子園の風BACK NUMBER
高校野球“波乱の夏”の声もあるが…「常連校に勝つのはやっぱり難しい」甲子園経験者の私立高校監督が明かす、シビアなスカウト合戦
text by
沼澤典史Norifumi Numazawa
photograph byAsahi Shimbun
posted2023/07/31 17:59
三角裕監督が率いる駿台学園野球部。写真は2013年の東東京大会、この年ベスト16進出
「競技人口が減って、野球がマイナースポーツ化しているんです。甲子園の各県の出場校は、似通ってきていますよね。近年で言えば、聖光学院(福島県)なんて13年連続出場しましたし、花咲徳栄(埼玉県)は5年連続。明徳義塾(高知県)もそう。昔は、あのPL学園(大阪)ですら3年連続で甲子園に出るのは難しかったですよ。マイナースポーツでは有力選手が一部のチームに集まるので、大会に出場してくるのが同じチームばかりになるんです」
つまり、有力選手が来てくれるようなチーム作りが必要だということ。そこにいたるまでには、「まだあと一歩、二歩」と三角は言う。
「秋や春はある程度、監督がチームを引っ張れば勝てますが、夏は3年生を中心に、選手自身が本気にならないとなかなか勝てない。責任転嫁ではないですが、本当にそうなんです。その本気度を夏に向けてどう植えつけるかが監督の最大の仕事ですよ。かつて伊奈学園が甲子園に行ったときのチームの四番打者は、みずから『監督、甲子園に行くのは当たり前、ベスト4を目指さないとダメです』と言ってきました。後で聞いたら、彼は他の部員たちを引き連れて、休みの日に埼玉県から日帰りで甲子園を見に行っていたそうです。駿台学園にも、こういう選手が出てきてほしい」
残酷なスカウト合戦
そのためには、まずは母集団が必要だろう。かつて三角が勤めた伊奈学園は生徒数3000人(当時)のマンモス校ゆえ、野球部は100人以上いた。対して駿台学園は、600人弱。その中で現在60人ほどの野球部員を擁しているのは快挙だ。一時期は1学年あたり10人まで減ったこともあったが、いまはコーチがスカウティングに回って選手を確保しているという。
そして三角が密かに期待しているのが、駿台学園の中学である。
「駿台学園中学には軟式野球部があって、昨年は全国大会で優勝したほどの強豪です。だけど中学の主力メンバーは、うちの高校には来ない。今年の選抜で優勝した山梨学院高校のエース・林謙吾投手もそのケース。他には、横浜高校、仙台育英、健大高崎、國學院久我山、佼成学園などにも行っていますね」
駿台学園高校と同じ東東京の二松学舎大附に行く者もいるというから、勝負の世界は残酷だ。
「いま高校の野球部にいる、駿台中学の野球部出身者は、1年生ゼロ。2年生が4、 3年生がゼロです。2年生の4人は、駿台中学の野球部では控え選手でしたが、そのうち3人は、高校では即レギュラーを獲るレベルです。駿台中学の軟式野球部は本当にレベルが高いです」
高校野球界の現状「原石がいれば…」
だが、三角は原石をみつけてみがくことに、指導者としての喜びを見出すタイプだ。中学や高校まで実績のない選手が、三角のちょっとしたアドバイスでコツを掴み、強豪相手にいいピッチングをしたり、打ったりする。それが三角にはたまらないのだ。