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大阪桐蔭・西谷監督がいま明かす“9回逆転負け”あの下関国際戦の真相「たぶん初めてだった」甲子園騒然のトリプルプレーはなぜ生まれたか
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/20 11:02
昨夏の甲子園、準々決勝で敗れ涙する大阪桐蔭ナイン
最初の説明の段階よりは、だいぶクリアになった。確かに、そういうスポーツのような気がしてくる。というより、坂原に熱弁を振るわれたら、どんな作戦でも坂原の説こそが正解に思えてきてしまいそうだった。
下関国際というチームの迷いのなさは、結局のところ、この坂原の強烈なカリスマ性に支えられているのだと思った。
いずれにせよ、下関国際のバントシフトに並々ならぬ圧力を感じたからこそ、西谷はサインを変更せざるを得なかったのだ。
「あのシフトの中、三塁側にバントしなければならないというのはプレッシャーがかかる。でもバントエンドランなら転がしさえすれば正面でもいい。僕としてはバッターを楽にしてあげたいな、という思いだったんです」
西谷「あそこで送れていたら…」
3球目、仲井が投じたボールは外よりの低目のストレートだった。そこまで極端に厳しいボールにも見えなかったが、大前は前につんのめるような恰好となり、やっとのことでバットの先っぽにボールを当てた。不完全な体勢でのバントは、緩いライナーとなって仲井のほぼ正面に飛んだ。
そこからは瞬く間だった。ノーバウンドで捕球した仲井から二塁、二塁から一塁と順に転送される。トリプルプレーの完成だった。
下を向く西谷。拳を突き上げる仲井。明と暗が一瞬にして入れ替わった。
その劇的な反転に引っ張られるように球場の空気もガラリと変わる。白と青と赤。下関国際のトリコロールカラーのユニフォームに心を奪われ始めていた。
西谷はこう悔いる。
「あそこでしっかり送れていたら追加点をとれる確率は高くなっただろうな、とは思いますね。点数を取れるところで取っておかないと、最後、必ず厳しい試合になる。サインを出したことは後悔していないし、失敗した選手を責めるつもりもまったくない。けど、あそこで詰められなかったことで展開が苦しくなってしまいましたね……」
自分が関わっている試合でトリプルプレーを目の当たりにする機会など一生に一度あるかないかだ。そんなアンラッキーが、よりによって、この夏の大阪桐蔭に降りかかるとは誰が想像しただろう。
〈つづく〉
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