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大阪桐蔭“じつは準決勝にあった”異変「好プレー後のグラウンドで…」「満場一致で決まった4番」「急激に伸びた2年生」なぜ王者は敗れたのか?
posted2023/07/31 11:37
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Sankei Shimbun
過去にも見た光景だった。
ベンチで打ちひしがれる大阪桐蔭ナインをじっと見つめる西谷浩一監督――。
大阪桐蔭が大阪大会決勝で敗れた。履正社の先発・福田幸之介を前に、3安打に抑えられての完敗だった。
「打てなかったですね。もうちょっと粘っていきたかったんですけど、チャンスを作ることも、チャンスで返すこともできなかった。力負けです」
甲子園2度の春夏連覇を果たした指揮官、西谷監督はそう言って俯いた。
プレッシャーがあったようには見えなかった。
だが、春からのチーム作りがうまくいかず、最後まで噛み合わなかった。
全てコールド勝ちした準々決勝戦までの試合を見てもそうだ。いつものような力強いバッティングが出ない。どこか迷走したまま決勝を終えた印象だった。
王者に何があったのか。
チームの異変を感じた準決勝「あるシーン」
筆者は準々決勝からの3試合を現地で見た。違和感を覚えたのが今大会初めて接戦となった準決勝の箕面学園戦。2年生の主砲、ラマル・ギービン・ラタナヤケが三塁守備で好プレーを見せたシーンだ。
3回表、勝ち越しを許した後の2死一、三塁というピンチでのことだった。相手4番打者の打球は三塁ファウルゾーンへの小ライナーになり、ラマルが飛びついてグラブに収めた。一塁側ベンチだった大阪桐蔭はそこで守りの回を終えて引き上げていくのだが、ラマルが手にしたボールを受け取る選手がマウンドにいなかったのだ。今年のチームを表す、ひとつの象徴だったように思う。
大阪桐蔭の強さは、個性を前面に出しながらも、異常なほどのまとまりにあった。ベンチからもよく聞こえてきたのが「カバー、カバー」という声だ。
カバーとは守備時におけるミスを未然に防ぐ「カバーリング」という意味ではなく、誰かがうまくいかないときは他の誰かが取り返すという意味。1番打者が先頭で出塁できなければ、2番打者が二塁打を打ち、チャンスを作り直す。あるいは、チャンスで適時打が出なかったら、その後の守備は必ず0で抑えることに尽力する。守備のミスが出た際には、投手がギアを上げて次の打者を打ち取る。そういったカバーの姿勢を持つことで、チームの結束が高まっていく。大阪桐蔭はいつもそうだった。