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プロ野球スカウトが熱視線「オリックス紅林弘太郎以来の逸材かも…」“ほぼ無名だった”長野の高校生ショートがドラフト上位候補に急浮上
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2023/07/11 17:28
ドラフト上位候補に急浮上した上田西高・横山聖哉遊撃手(3年・181cm81kg・右投左打)
細かいステップが使えて、ハンドリングが柔らかい。両腕がダランと弛緩した感じで捕球点を作れているので、打球とのコンタクトがやさしい。
定位置や二塁ベースからは、正確なスナップスローが一塁手の顔より低く集まる。ロングのキャッチボールで、ライナー軌道の80m級を続けていた強肩だが、これ見よがしに強く投げようとし過ぎないのがいい。見せようとする内野手は、ちょっと慌てるとフカしてポカをする。
シートバッティングでの打球。三遊間深い位置に強く飛んだゴロに、バックハンドの捕球で体勢がぐらつく。ぐらついて、前傾になった上体を起こして、普通の高校生ショートなら、選ぶのはワンバウンドスローだ。
そこを横山は、ためらいなくダイレクト送球で一塁手を狙うと、狙い通り真っ直ぐの球道でストライクスローになったから、思わずウワッと声が出た。
持ち味の鉄砲肩が、実戦の中で発揮できている。こんなスローイング能力を持った遊撃手、今年の高校3年では見ていない。大学生でも、明治大3年で「来年のドラフト目玉候補」の宗山塁ぐらいしか思い出せない。
高校の先輩に出会って「目が覚めた」
「肩は小さい頃から強かったんで、三遊間からもノーステップのダイレクトスローで刺せてたんです」
横山の話は、まず「守り」から始まった。
「子供の頃、体が小さかったんで、バッティングより守備で目立とうと思って、一生懸命練習したんです。でも、ただ上手い選手のマネをしていただけだったんで軽いプレーっていうんですか……雑なプレーになっていたのは、確かだと思うんです」
上田西に入学して当時3年生の先輩、柳澤樹遊撃手(現・國學院大)のプレーを見て、目が覚めたという。
「まずエラーしないんです。目立ってました。華麗っていうわけじゃないかもしれないんですけど、精度がすごい。自分のイメージになかったフィールディングだったんで」
柳澤遊撃手のことは私もよく覚えている。守備範囲に飛んだ打球は低い姿勢で丁寧にさばき、二塁ベース上のゴロにはダイビングキャッチで捕球点を作り、サッと立ち上がって一塁にストライクスローをきめてみせる。
引っかけた内野ゴロを打つと、そのたびに、打ち損じを帳消しにせんとばかりに、一塁へ猛烈なヘッドスライディングを繰り返すガッツマンでもあった。2021年春のセンバツでは、全国の舞台でそのハイレベルな走攻守を披露している。
「河川敷まではしょっちゅう」消えていくボール
横山遊撃手の話はバッティングへ移っていく。
「1年間で体が勝手に大きくなって、それに連れて、打球も飛ぶようになって……」
上田西高グラウンドは、ライト90mほどのフェンスの向こうが土手になっている。その向こうは千曲川の広い河川敷だ。