「日本文理の夏はまだ終わらない!!」アナウンサーが絶叫…9回2アウトから6点差→1点差に　15年前の甲子園決勝、敗者が笑った“奇跡の19分間”舞台裏

　中京大中京のマウンドには、エースの堂林翔太が再び上がろうとしていた。

　6回の途中でノックアウトするほど得意としていたピッチャーだったが、残り1回の攻撃で6点差は絶望的で、日本文理を率いる大井道夫ですら「最後、1点か2点くらいは返そうよ」と、笑顔を作るので精一杯だった。

9回。中京大中京のマウンドには再び、エース堂林の姿が　©︎BUNGEISHUNJU

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　最後の攻撃が始まる円陣に、キャプテンの中村大地は加わっていなかった。この回の先頭バッターで、自分の前を打つ若林尚希を激しく鼓舞していたのである。

「フルスイングを心掛けろ！　俺はお前のそういうところをずっと見てきたんだからな！」

　ノーアウトランナーなし。8番・若林尚希。

　若林はこの試合、堂林から2三振と振るわなかった。だから、この打席では「しっかりとボールを見よう」と意識していたがそれが災いし、カウント2ストライク1ボールから外角低めへの際どいスライダーを見逃し、また三振に倒れてしまった。

「自分から始まるのに、最後のボールを振らずに見逃し三振して。申し訳なくて」

　1アウトランナーなし。9番・中村大地。

　堂林から2打席凡退と快音はなかったが、中村は「球も遅いし、打ってやれ！」と、相手を見下すように打席に立っていた。

キャプテン中村も打ち取られ、いよいよ9回2アウトに。崖っぷちの状況だったが、意外にも諦めはなかったという　©︎BUNGEISHUNJU

　1ボールからの2球目。127キロのストレートを捉えた強烈な打球をショートが弾く。「セーフか」と思いながら走ったが、球足が速すぎたせいでアウトとなってしまった。

「タイミングも合って（バットの）真芯も食ってたんですけど、『やっちまったぁ』って」

9回2アウト、6点差。それでも諦めはなかった

　だがこのとき、キャプテンのなかには不思議と諦めはなかったのだという。

「『野球は2アウトから』って言われるじゃないですか。だから、『切手が出ればなんとかなる』って思いがあったんですよね」

　2アウトランナーなし。1番・切手孝太。

　準決勝までの打率は4割1分2厘と好調で、リードオフマンの役割を果たしていた。それが、この試合ではノーヒットだった。フルカウント。あと1球。

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