「川まではムリですけど、河川敷まではしょっちゅう」

　取材の日も、その通りの打球が低めの軌道でフェンスを越えて、土手の向こうに消えていく。

「どちらかというと、自分は映像を見て学ぶタイプだと思っていて、見てマネすると、ある程度その通りできるんで」 

　お手本は「ヤクルト・山田哲人の11種類のティーバッティング」だという。

「バウンドさせたボールを打つ練習なんか、すごくためになりました。足を使って打つ感覚が身についた感じで、変化球打ちが自然にできるようになって」

　確かに、カーブ系のボールに多少タイミングを外されても、股関節の連動でボールに付いていって、頭が突っ込まない。巧みなハンドリングでヘッドを走らせて、ライナー性で外野に弾き返す。

「148キロが出たんです」

「この前、実戦でも148キロが出たんです」

　プロに加わっても遜色ない鉄砲肩だから、個性派居並ぶ上田西投手陣の一角を占める横山。

「真っ直ぐとフォークで三振を奪うのは痛快ですね。マウンドって1人じゃないですか。それがなんだか楽しいし、投げてるとピッチャーの気持ちがわかるじゃないですか。やっと打ちとったと思った打球をエラーされた時とか……1つのアウトをとることの重さがわかります」

　この春以降、仙台育英・山田脩也（177cm71kg・右投右打）、銚子商・押本柊也（174cm72kg・右投左打）、龍谷大平安・山口翔梧（177cm70kg・右投右打）……上手いなぁと感心する遊撃手は何人もいたが、びっくりさせられたのは、東海大熊本星翔・百崎蒼生（178cm76kg・右投右打）と、この横山聖哉だけではないか。

プロ野球スカウト「今年の候補で遊撃手トップ2」

「オリックスの紅林（弘太郎・駿河総合高、2019年ドラフト2位）以来、レギュラーの期待を持たせるような高校生ショートがなかなかいないのは事実。中日の土田（龍空・近江高、2020年ドラフト3位）がなんとか出てきてるぐらいで、去年のイヒネ・イツア（誉高、ソフトバンク1位）も、故障が長引いて、まだ野球になっていないと聞いてます。

　高校生ショートは、毎年1人欲しいぐらいなので、打てて守れる今年の横山と百崎はプロ待望の存在といってもいい。今年は、大学生がわんさといるので1位はないとしても、若いショートはどこも欲しいですから。2位、3位なら十分考えられるんじゃないですか」

　そう語ってくださったスカウトの方は、大学生、社会人を含めても、「遊撃手のトップ2」だろうと、付け加えてくださった。

　花巻東・佐々木麟太郎の独走態勢だった「高校生野手ドラフト上位候補」に、ここまでほとんど無名だった信州の遊撃手が食い込んできた。

　あとは、最後の夏の檜舞台で、どれだけその「実戦力」を発揮できるのか。「結果」ももちろん問われるのだろうが、それ以上に、グラウンドを縦横無尽に暴れまわるエネルギッシュな姿が見たい。プロの目もそのへんに注がれるはずだ。