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「高校時代は無名ピッチャーだったのに…」2023年はドラフト豊作の予感…“ドラ1候補”4人の大学生・左投手を発見「元中日の山本昌を思い出す」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2022/12/22 17:03
来年のドラ1候補・大学生ピッチャー【2】大阪商業大・高太一投手(3年・183cm80kg・左投左打・広陵高)
関西大・金丸夢斗のことは、その名前ぐらいは高校時代から聞いていたが、「鳴門渦潮・徳山」の名前は高校時代どころか、この試合で初めて知ったぐらいだから、そのピッチングを見て、本当に驚いた。
初回のマウンドでも、ちょっと緩く見えてしまう表情に、正直、大丈夫かな……と思いながら見ているその目の前で、140キロ前後の速球であっという間に追い込んでいく。そのまた「140キロ前後」が低めに伸びていくように見えたから驚く。
間にはさむスライダーのタテと斜めの割れ方……これもいい。不慣れな大舞台のマウンドだろうに、焦って投げ急ぐような幼さも見せず、むしろゆったりとした流れのモーションから、やはり1時方向の角度で投げ下ろして、176cmの身長よりずっと「高さ」を感じる球筋。なるべく長くボールを持って、体の左右を一気に切り替えながらの腕の振りが球持ちのよさになって、打者がものすごく速く感じているのが、その差し込まれ方からよくわかる。
それにしても、初回1死から4人連続空振り三振を奪った146、7キロの快速球も魅力あふれるボールだが、ならば、「140キロ前後の低め」は、いったいなんだ? 何度見ても、ストレートにしか見えない。
「はい、真っすぐはふた通り投げ分けてます」
試合後に平然と答えてくれたから、疑問は消えた。
あっさり言ったが、これは高等技術だ。徳山投手の速球のスピードはふた通りかもしれないが、腕の振りはひと通り……つまり、腕の振りに強弱をつけずに、10キロ近い球速差のある速球を投げ分けている。
環太平洋大・野村昭彦監督は駒澤大、社会人・ENEOSのエースとして奮投し、指導経験も長い方だ。「役に立つ事」をいろいろ仕込まれたのだろう。それを身につけていった徳山投手の頑張りも想像できる。
7回終わって2四球だけの無安打無失点。ほんとなら、これからが勝負!とマウンドに向かうところだろうが、探してみたら、ベンチ裏でマッサージを受けていたというから、もう一度驚いた。
この無欲、怖いもの知らずの大物感。
明けて、その先2年間の4シーズン。いろいろな目に遇いながら、自身をどんなサウスポーに開発していこうというのか。
「左腕」だけに限ってレポートした今回。それでも、これだけのことが語れる学生球界。
もちろん、右腕にも野手にも、これぐらいの選手は何人もいて、秋のシーズンが終わったばかりのこの暮れなのに、来春のスタートが今から待ち遠しくてならない。