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『キープする本田』『試合、出ましょか?』ドイツ戦の“痛恨ミス”「素晴らしい切り返しに救われた」寺川アナが選ぶNo.1ホンダ解説は?
text by
林遼平Ryohei Hayashi
photograph byNaoki Morita/AFLO
posted2022/12/16 11:03
カタールW杯で多くの話題を提供した「ホンダ解説」。寺川アナとの軽快なやり取りが好評を得た
寺川アナ 実は試合前に槙野さんから「ルイス・エンリケ監督の娘さんとトーレスが付き合っているらしい」と教えてもらっていました。でも、まさか試合中にコメントしてくるとは(笑)。とりあえず私は「そうなんですか」とやんわり受け流してしまいましたが、本田さんがバッサリと「日本が勝っている時に冗談やめて」と。これによって「槙野が本田に怒られた」というパッケージが完成しました。でも、これはすごいことなんですよ。
――すごい、とは?
寺川アナ あのシーンで本田さんが槙野さんにダメ出ししたことで、一連の流れがW杯中継において成立したんです。あのひと言によって私が何ができたかと言うと、その直後に次の質問を槙野さんにぶつけることができたんです。つまり槙野さんをサッカー解説者に戻すことができたわけです。
私も否定し切れなかったので、あのままいったら浮ついた空気になっていたと思います。そこで、本田さんがいい塩梅で空気を引き戻してくれた。槙野さんに真面目なことを答えてもらったらふわっとした空気が一掃されました。しかも、お兄ちゃんが弟をダメだぞと叱っている感じの雰囲気で。ピシャッと空気を変える、これが司令塔かと思いました(笑)。
「PK、見ます?」に隠されたツンデレ愛
――死闘となったクロアチア戦はどんなことを覚えていますか?
寺川アナ やはりPK戦ですね。日本戦の4試合通して本田さんの言葉で一番印象に残っているのが、「(PK)見ます……? 見れないです」と発言した後に「もう、楽しく見ません?」と言ったことです。この言葉を聞いた時、すごく温かい人だな、優しい言葉だなと思いました。一瞬「いやいや……」となりそうなんですが、楽しくなんて見られないことを誰よりも分かっている人が、あえて言っているわけですよね。ここまでよく頑張ったんだから、そんな1本1本で一喜一憂しないで、楽しく見ませんか、と。
――深い言葉ですね。
寺川アナ 何本目かが終わったタイミングで私は「本田さん、楽しくなんか見られませんね」と問いかけていると思うのですが、この時、今までにないぐらい放送席が“素っ裸”だった感じがします。その状況を作ってくれたのは本田さんです。厳しいことを言っても嫌な感じがしない“真髄”みたいなものが、この言葉に集約されていたと思います。最後の最後に「あっ、やっぱり優しいお兄ちゃんなんだ」と。ツンデレですね(笑)。
この4試合、本田圭佑という人がサッカーに対してとても真っ直ぐで、一生懸命で、いまだに世界一を諦めていない“少年の心”みたいなものをちゃんと持っている人だということがよくわかりました。そして、本田さんはそれをいつか絶対に叶えるだろうとも感じることができました。それが言葉になって表れたのが「楽しく見ません?」だったのだと思います。
(つづく)
★#3では名門・早稲田大学サッカー部に所属していた寺川アナが、スポーツ実況の道を志す過程を取材しました。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。