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アントニオ猪木は「とてつもなく大きな岩」だった…藤波辰爾68歳がリングに上がり続ける理由「猪木さんが旅立って、逆に引けなくなった」
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2022/11/20 17:07
68歳になっても現役を続ける藤波辰爾。12月1日の棚橋弘至とのシングルマッチに向けて、アントニオ猪木から受け継いだ闘魂を燃やしている
藤波は師匠の気持ちを推し量り、代弁した。
「猪木さんが骨を折って作った団体が“普通”になってしまって、みんな勝手にパフォーマンスして、『こんなのを見せるために会社を作ったんじゃないぞ。もっと背筋がゾクゾクするものを見せてくれ』って言いたかったんでしょうね。選手たちの雰囲気的に、プロレスラーとしての心構えができていないって、そう猪木さんは捉えていたんでしょう」
藤波辰爾、68歳の覚悟「逆に引けなくなった」
12月に69歳になる藤波は、自身の“終わり”をどう見据えているのだろうか。
「もちろん引き際はあるんだろうけれど、みんな1日でも長くリングに立ちたいと思っている。プロレスって常に変化している。もうドラゴン・ロケットはできない。でも、違う動きで補ってやっている。それはお客さんが判断してくれるでしょう。
藤波には昭和の人間としての自負がある。
「自分は昭和を引きずっている。猪木さんが旅立って、逆に1年、2年では引けなくなった。プロレスはどこに行っちゃうんだろうな……。現役として、“リング上の語り部”として、猪木さんから受け継いだものを消したくない。寂しいですよ。長州がいなくなって、蝶野(正洋)があんな状態、武藤(敬司)も来年引退するでしょう。だからこそ行動で伝えたい。俳優じゃないんだから、服を着て顔だけ出してじゃなく、リング上で見せられる体というのがあってのことです」
藤波はレスラーとして肉体へのこだわりを見せる。
「全盛期の半分しか練習はできない。週に3、4回、ジムで3時間、4時間です。気を抜くとタイツのおしりの下に線が入ってくる。これを作っちゃいかんと。油断したら、すぐたるみが出てくる」
12月1日の相手は45歳の棚橋弘至だ。
「棚橋を指名して、『オレも失敗したなあ』と思った(笑)。リップサービスじゃないんだけれど、言っちゃいかんだろう、と思っても言ってしまう。まあ、68歳のいい刺激かな。猪木さんが45歳、僕が34歳で戦ったというのが意識のどこかにあってね。年齢はずいぶん違いますけど、あの時の猪木さんの心境を少し味わえるのかな……」
その棚橋が「猪木さんが亡くなってしまったぶん、オレが燃えないといけない」と葬儀の日に言っていたことを藤波に伝えた。
「彼は僕に憧れてプロレスに入った男。今も棚橋はいい体をしているけれど、代々木ではもっとバキバキにしてリングに上がってくるでしょうね」