「大学時代は毎試合全員抜くつもりでやっていました」

　大学1年生から活躍を続けていた三笘は、当然、他クラブのスカウトからも注目の的だった。他クラブから筑波大に「三笘を練習に参加させたい」という打診があったことは、向島も耳にしていたという。

　一般的に、大卒後の“出戻り”が濃厚な他クラブのアカデミー出身者には、紳士協定として「先に声をかけない」という暗黙の了解がある。とはいえ、一度クラブを離れている以上、声をかけて獲得することがルール違反というわけではない。あの手この手を使って三笘にアプローチし、水面下で獲得しようとする動きがあったことは想像に難くない。だが、向島は本人との「約束」を信じていた。

「僕らも定期的に会いにいきましたし、食事をしたときにも『僕はフロンターレしか考えていないので、心配しなくて大丈夫です』と常々言ってくれていました。だから薫に関しては、成長を見守るだけで、それほど心配はなかったです。彼のようにロイヤリティ（忠誠心）の高い選手ばかりなら、僕らスカウトの仕事も少なくていいんですけどね（笑）」

　約束通り、大卒後の三笘は川崎に入団した。プロ入り後に見せた大活躍はご存知の通りである。

同期入団の旗手怜央と共に新人離れした活躍を見せた　©Masashi Hara/Getty Images

　新人ながらリーグMVP級のパフォーマンスで、2020年の独走優勝に大きく貢献した。ただプロでいきなり活躍できたのも、大学4年間の試行錯誤と研鑽があってのことだ。向島は、ある日の練習前の麻生グラウンドで何気なく交わした会話をよく覚えているという。

「入団後、ドリブルで大活躍しているときですね。『大学時代の僕は、毎試合全員抜くつもりでやっていました。だから、今のプレーができるんです』と薫が言ったんですよ。プロのピッチでこれだけやれるのは、大学時代にそのレベルを想定したプレーをしていたからだと。1年のときは自分勝手だと思われていたかもしれませんが（笑）、それくらいじゃないと今のドリブルはなかったというわけです。そんなことを言う若手はいないですね。自分をハッキリと持っていて流されない。彼のような選手がトップになるんだな、と思いました」

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