その頃、ライバルたちは着実に成長を遂げていた。プロ野球の中継を目にすると、U-18で共闘したヤクルト奥川はクライマックスシリーズ、そして日本シリーズで快投を重ねていた。同じ左腕のオリックス宮城は新人王に輝き、今年に入ると佐々木が完全試合を達成、阪神の西純矢は投打にわたって活躍していた。仲間の活躍は嬉しい反面、「じゃあ自分は？」とネガティブな気持ちも押し寄せてきた。

「正直、見ていられなかったというか……。みんなが輝いて見える分、自分は何をしているんやろうって思いました」　

　それでもドラフトが懸かる3年目のシーズンは心を奮い立たせた。5月のベーブルース杯でマウンドに復帰すると、6月の都市対抗予選では自己最速の147キロをマーク。念願の都市対抗野球のマウンドは、林から最大限の力を引き出してくれた。

「2イニングでしたけれど、プロに行くならばあのマウンドで活躍しないといけないと思っていました。ひとつの通過点でしたが、3年間取り組んできた力強いまっすぐは投げられたかなと。久しぶりに高校の時のような前向きな気持ちに戻れたというか、野球をやっているからには大舞台で活躍しないといけないと思いました」

　3安打1失点。数字としては決して満点とは言い切れなかったかもしれないが、これまでの思いも何もかもを込めた。この日計測した最速146キロのストレートが、林の社会人野球の集大成だったのかもしれない。

入社時に60キロだった体重は75キロに

　高校時代は3度の甲子園に出場し、行く先々で常にスポットライトが当たり続けた。注目度の高い高校野球に比べ、社会人野球は決して“華やか”ではないが、アマチュア野球界の最高峰でもある。苦悩や不安もつきまとったが、厳しい世界に身を置き、本気になって取り組んだことで成長を遂げることができた。

　3年前に「体作りとストレートの球速と質」を目下の課題に挙げた林の体重は75キロに増え、球速も最速で18キロもアップしている。

2019年夏の甲子園（3年）では1回戦で東海大相模に敗れた　©︎Sankei Shimbun

力強さが増した2022年の林優樹　©︎Fumi Sawai

「2年目は悩みながら探しながら、でも自分ではしっくり来ていなくて、不甲斐ない結果と自分のケガで終わって、来年こそは絶対にプロに行きたいという夢がずっとありました。1年目の苦労があったから2年目もあそこまで投げられたし、2年目に順調だった時にケガをして心が折れそうになった時があったから、今年ここまで投げられたと思います。9月の日本選手権予選の日本製鉄東海REX戦で投げて、6回1失点でしたが、甲子園で感じた緊張ではなく、ここまでやって無理ならもういいやというくらいの気持ちで投げられたんです。“優樹の人生をみんなで変えてやろうや”というチーム全体のサポートもあって、自分らしいピッチングができました」

　それでも、まだまだ挑戦は続く。来年からはさらにハイレベルな世界に立つ。もちろん、前へ前へ、という気持ちはこれからも変わらない。

「まだまだですけれど、3年前の自分の気持ちを思うと今はすっきりしています」

　刺激を与えてくれた仲間たちの待つ世界での活躍を誓うその姿は、もうあの頃とは違う。大人っぽくなった表情を見て、初めて会ったあの雪の日を懐かしく感じた。

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