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松尾汐恩DeNAドラ1も、なぜ大阪桐蔭2人が“指名漏れ”? スカウトの指摘した課題「川原嗣貴はクイック、海老根優大は…」
posted2022/10/21 11:03
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Jun Aida
プロ野球ドラフト会議が始まる15分前。大阪桐蔭の松尾汐恩捕手は報道陣が待つ会場に現れた。その表情は、やや硬さを感じさせる。4季連続で甲子園に出場し、3年生の春は頂点にも立った豊富な経験があるとは言え、まだ18歳。子どもの頃からの夢が叶う瞬間を待つ心境は、ドラフト候補にしか分からないだろう。
松尾の左隣にどっしり腰を下ろした西谷浩一監督は、教え子の緊張をほぐすように度々声をかける。松尾の顔に笑みが浮かぶ。午後5時。ドラフト会議の開始をテレビモニターで確認した松尾はネクタイの結び目を直し、背筋を伸ばした。
松尾が一度だけ使った「ホンマに」に漏れた本音
1位指名の選手の名前が次々と呼ばれていく。残り3球団。11番目のオリックスと12番目のヤクルトは1位で指名する選手を公言している。松尾の1位指名は事実上、最後のチャンス。静まり返った会場に、名前が響いた。
DeNAが今秋のドラフトで最高評価を下した選手は、松尾だった。会場最後尾に座っていた仲間たちから拍手が沸く。松尾の表情は変わらない。30秒ほど経ち、西谷監督に声をかけられると表情を崩した。そして、12球団全てが1位指名を終えたと同時に、大きく息を吐いた。
やはり、緊張していたのだろう。記者会見で思わず安堵が漏れた。2問目の質問。指名を待っている時と指名を受けた時の心境の変化を聞かれた時だった。
「本当に選ばれるかどうか分からない状態で待っていましたが、選んでもらってホンマにほっとしました」
この日の松尾は「本当に」を繰り返し、指名された喜びや今後の意気込みを正確に伝える言葉を探していた。ただ、会見の冒頭で一度だけ「ホンマに」と“本音”が漏れた。
松尾はプロの目標に「新しい捕手」を掲げた。具体的な数字には「トリプルスリー」を口にした。近年の野球で重宝される「打てる捕手」からさらに進化して「打って、走れる捕手」を思い描いている。
「自分の長所はスピードのあるプレーと肩の強さです。打って、走れる捕手は難しいと思いますが、新しい形を見せていければと思っています」
西谷監督「普通の捕手にないスピードが」
松尾は元々、遊撃手だった。捕手に転向したのは1年生の秋。経験は浅いが、ドラフト1位指名を受ける捕手にまで成長した。西谷監督は「普通の捕手にはないスピードがあります」と評する。