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バイクとライダー速いのはどっち!? MotoGP新王者クアルタラロが少数派の並列4気筒、ヤマハYZR−M1で勝てたワケ
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2021/10/31 17:01
泣いて笑って大忙しの新チャンピオン、クアルタラロ。マルケスとの真っ向勝負が見られそうな来年は彼の真価が問われる
特筆しておきたいのは、現在のMotoGPマシンの主流となったクランクの逆回転に先鞭をつけたのはヤマハであること。ライバルたちもそれに追随したが、逆回転クランクのメリットである「ウイリーしにくい」「コーナー立ち上がりでマシンがイン側を向くジャイロ効果により加速に優れる」という特性は、YZR−M1がイチバン洗練されている。
そして、これも一般論だが、エンジンが速くなればなるほどマシンは乗りにくくなる。加速している状態のバイクをコントロールするのは非常に難しいからだ。
ロッシに「こんな速いエンジンは必要ない」と言われた
その昔、バレンティーノ・ロッシがホンダに乗っていたころ、ホンダが馬力を上げたニューエンジンをテストに持ち込んだら、ロッシに「こんな速いエンジンは必要ない」と言われた。「どうして?」というエンジニアの質問に、ロッシは「6速で加速しているようなバイクはいらない。そんなバイクをどうコントロールするんだ?」と答えたという。
思えば、マルク・マルケスがチャンピオンを獲り続けたときに常に話題になったのが、マルケスが速いのか、それともホンダが良かったのか、という問いだった。レース界では永遠かつ結論のないテーマだが、ホンダとヤマハのバイクの特性はまるで違っても、マルケスとクアルタラロの速さに疑問の余地はない。
そんな永遠の問いに、ある日、仲のいいエンジニアが、僕にこう答えてくれたことがある。
「結果が出たときも、そうでなかったときも、我々はいつだってライダーの要求に応えようとがんばっている。だから、勝ったときは、ただただうれしいんだよね」
シーズンは残り2戦。プレッシャーから解放されたクアルタラロは、果たしてどんな速さを見せてくれるだろうか。そして転倒でチャンピオン争いから脱落したバニャイア、着実に本来の走りを取り戻しているマルケスが、クアルタラロとどんな戦いを見せてくれるのか。残り2戦は、来季を占う戦いになるのかも知れない。
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