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「手術はソーセージの皮が弾けるような…」マルケスに佐々木歩夢、MotoGPライダーに急増中の“腕上がり”の正体と270万円の治療とは?
posted2025/12/05 06:00
走行前、入念に腕のストレッチを行う佐々木
text by

遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
マルク・マルケス+ドゥカティの圧勝で幕を閉じた2025年シーズン、僕がずっと気になっていたのは「腕上がり」の手術をする選手が近年とても増えたことである。
小排気量のMoto3クラスで腕上がりの手術をする選手はほとんどいないが、Moto2クラス、MotoGPクラスでは多くの選手が腕上がりの症状に苦しみ、もしくは予防的処置のために腕上がりの手術をするケースが増えている。手術後1カ月はトレーニングを控え、回復に努めなければならないので、シーズンオフ突入と同時に手術に臨む選手が一気に増える。たとえばマルクも、直近では2023年のシーズンオフに右腕の手術を受けている。
そもそも「腕上がり」とはなんなのか。医学的名称では「慢性労作性コンパートメント症候群」といい、オートバイ選手が発症すると、前腕のしびれ、痛み、脱力感などで、ブレーキングやアクセル操作はもちろん、ライディングそのものが大きな影響を受けることになる。
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実際の手術について、これまで多くのライダーたちを見てきたスポーツトレーナーの鎌田貴さんがわかりやすく説明してくれた。
ソーセージの皮が弾けるような手術
「前腕を過度に使うと筋肉がパンパンになって筋膜がこれ以上伸びない状態になり、筋肉の動きが制限されて動きにくくなる。これが腕上がりの正体です。それを防ぐため、手術では筋膜にメスを入れて筋肉の動きを妨げないようにする。ソーセージに例えるとわかりやすいですね。フライパンでソーセージを温めると膨張してパンパンになって皮が弾ける。あんなイメージです」
このオフ、日本人選手ではMoto2クラスの佐々木歩夢がマドリードの病院で手術を受けた。グランプリを運営するドルナスポーツからドクターを紹介してもらい、全身麻酔で両腕の手術を行った。費用は1万5000ユーロ(1ユーロ182円換算で273万円)と、なかなか高額である。
「腕上がりの手術はこれで2回目。Moto2にスイッチした24年のシーズン中に1回やって、症状は改善されたんですけどね。今年のシーズン後半に入って、また腕上がりの症状が出てきた。ドルナからは5人のドクターを紹介してもらいましたが、同じクラスを走る選手から3回目の手術をしたドクターがすごく良くて、症状がすごく改善したという話を聞いたので、そのドクターにお願いしました。今年は『腕上がりがなければ』という悔しいレースが何回もあったし、オーストラリアGPでは症状がでなかったら表彰台争いに加われたと思う。そのとき、シーズンが終わったらすぐにやろうと決めました」

