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マルケスにしかできない“神業級”の転倒…「今日は最高のマルクではなかった」の言葉に滲む、王者復活への期待感
posted2021/05/19 17:03
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
第5戦フランスGPは、4年ぶりの“フラッグ・トゥ・フラッグ”となり、ジャック・ミラーがスペインGPからの2連勝を達成。2位にヨハン・ザルコ。3位にファビオ・クアルタラロと地元フランス勢が続いた。
今回は、クアルタラロが優勝したら、彼のことを書こうと思っていた。3位でも良かったのだが、やっぱり今回も、マルク・マルケスのことを書かなければならないだろうと思った。なぜなら、転倒リタイヤに終わったが、実にマルケスらしい走りを見せてくれたからだ。
“フラッグ・トゥ・フラッグ”とは、レース中の降雨による赤旗中断をなくし、レース中にレインタイヤを装着したマシンに乗り換えてレースを続けるというルールで、2005年に採用された。「Wet」レースはスタートからこのルールが適用され、この年の第2戦ポルトガルGPで、ウエットが得意なアレックス・バロスがスリックタイヤで走り続けて優勝した。
スポーツというよりはイベント色の強いルールで「一体、こんなこと誰が考えたのだろう」と当時はあきれ果てたが、選手たちには概ね好評で、支持されたのが面白い。その最大の理由は、レース展開が大きく変わり、逆転のチャンスが大いに膨らんだからだろう。実際、“フラッグ・トゥ・フラッグ”では、誰が優勝するのかまったく予想がつかないレースが多い。
コンディション不良でこそ光るマルケスの強み
13年にMotoGPクラスにデビューしたマルケスは、これまで“フラッグ・トゥ・フラッグ”で圧倒的な強さを見せてきた。特に際立っているのは、ウエットからドライになるときで、ライン上が乾くか乾かないかのうちにスリックタイヤを装着したマシンに乗り換えて独走に持ち込む。ラインを外せば当然転倒につながるが、その正確なライディングでライバルを圧倒してきた。
そして今回のようにドライからウエットになるケースでは、ピットに入るタイミングがほとんど同じになる。4周目に雨が降り始め、5周目に“フラッグ・トゥ・フラッグ”のルール適用のフラッグが提示され、全員がピットに戻りマシンを乗り換えた。
この時点でマルケスは4番手を走行していたが、ピットに戻り、マシンの乗り換えの速さで誰にも負けないマルケスは首位でコースに復帰する。その後ろにはクアルタラロとアレックス・リンスが続いたが、リンスはコースインした直後の3コーナーで転倒するという難しいコンディションだった。