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「千賀くんのノーノーをめっちゃ意識した」18歳のホークス千賀滉大がソフトボール上野由岐子に出会った“9年前”《侍ジャパン》
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byJIJI PRESS
posted2021/07/31 17:01
2020年1月の自主トレ。ホークス千賀滉大(左)、ソフトボール代表上野由岐子、ジャイアンツ菅野智之(福岡県久留米市で)
とても研究熱心で、特にフォームや体の構造などについて物凄く興味を持っていること。マウンド上ではいつもポーカーフェイス。そして、基本的にプラス思考なところも同じだ。
しかし、本来は明るいはずの千賀の笑顔を、もう長いこと見ていない。
2021年、彼はずっと苦悩と戦っている。両ふくらはぎの状態不良のために春季キャンプをずっとリハビリ組で過ごし、調整遅れからやっと立つことの出来た今季初の一軍マウンドの4月6日のファイターズ戦で強烈なピッチャーライナーを捕球した際にバランスを崩して、着地の際に左足首に体重が乗り捻ってしまった。左足首の靱帯を損傷して長いリハビリ生活を余儀なくされた。しばらくは松葉杖が手放せない生活で、東京五輪出場は絶望視されていた。しかし、順調な回復を見せ、追加召集という形で侍ジャパンに加わることになった。
だが、今度は調子が上がらない。一軍復帰戦となった7月6日のマリーンズ戦は3回途中9安打、3四球、自己ワーストの10失点と大炎上。何より深刻だったのが、158キロの直球を投げても奪三振がゼロだったこと。球速表示だけは以前よりも上がっているのに、空振りがとれない。この試合だけでなく、復帰前のファーム戦でも同じ。二軍降格後の調整登板でも、代表に合流してからの壮行試合でも苦戦が続いている。
なぜ投球フォームを変えたのか?
投球フォームを変えた影響であることはほぼ間違いない。以前に比べて体を回す意識が強くなり、ホームベース方向への推進力が弱くなっている。その分、開きは早くなる。球速があっても空振りがとれないのはそのためではなかろうか。
千賀は昨年春の開幕延期期間の練習のあいだに「今までの僕よりもすごくなるため。今までのものをすべて捨てて、新しいことをやっています。今までが『A千賀』ならば今回は『B千賀』というくらい違うもの」とかなり大胆なフォーム改造に乗り出した。
理想形を追うとメジャーリーガーの投げ方が近い。日本では「肘を先に出して、しならせて」などと昔からよく言われるが、求めたのは「肩肘を意識せずに投げる。それが怪我回避には大切」という考え方だった。
昨年は準備期間が短く開幕後に苦戦したことで、元のフォームに戻してシーズンを戦い抜いたが、今年に向けてオフ期間から再び自分の新しい理想を追い求めて準備をしてきた。
十分な成功を収めてきたのに、なぜ、わざわざ。
多くの人がそう考えるだろう。
王貞治「その一瞬のために365日努力をする」
しかし、一流には一流にしか分かり得ない世界と、その中での超感覚がある。