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過去にペップも「2度目だ!」と激怒…プレミア「VAR損得ランキング」 一番の被害者はどこ?
text by
三重野翔大Shodai Mieno
photograph byGetty Images
posted2021/01/26 17:01
VARで中断中、スタジアムの大型画面を見つめるエバートンとレスターの面々。さて、プレミア前半戦で一番損しているのはどこ?
試合開始直後の5分、リバプールのペナルティボックス内でトレント・アレクサンダー・アーノルドの手にボールが当たったが、PKは与えられず。その後プレーは続行され、リバプールは先制点を挙げた。
さらに試合終盤の82分にも、ペナルティボックス内で右サイドバックの手にボールが当たったが、これもハンドは認められなかった。
直後にグアルディオラが2本指を掲げ「Twice!(2度目だぞ!)」と叫んだシーンは印象的だ。結果、シーズン前半戦で最大の大一番に敗れ、リバプールの独走に拍車をかける形となった。
「試合を左右する判定は94%まで上昇」も
VARを導入することのメリットは得点や退場などの重要な場面での判定ミスを防ぐこと、そして審判員による判定の偏りを防ぐことにある。しかし導入後も判定の一貫性が見られないばかりか、VARの介入も審判によって基準が異なるなどむしろ問題は増している。
プレミアリーグは公式HPで「VAR導入前の18-19シーズン、試合を左右する判定が正しかったのは82%だったが、19-20シーズンはVARの助けを借りて94%まで上昇した」と紹介している。もちろんVARによる判定の多くは正しく適切なものだ。それでもVARに対する風当たりが弱まることはない。
当然だ。オンプレーでの判定ミスで「主審も1人の人間だ、ミスはある」と納得していた頃とは異なる。100%正確な判定を下すためにビデオを介してチェックしているのだから、残りの6%が起きたときには「何のためにVARがあるのだ」と批判のひとつもしたくなる。試合を左右する場面ならなおさらだ。
プレミアリーグはもう半分――いや、まだ半分しか終えていない。昨季はこの時点でリバプールの優勝がほとんど決まっていたが、今季は全く予想がつかないタイトルレース。何が起きてもおかしくない。
バイエルンやPSGの優勝が約束され、バルセロナとマドリー勢が牛耳る他国のリーグにはない、強豪さえも飲み込む大混戦。プレミアリーグはあるべき姿を取り戻し、フットボールファンを楽しませている。
そんなリーグにおいて、VARがフットボールのあるべき姿を壊してはならない。
“左腕のオフサイド”で消えたゴラッソ
プレミアリーグが掲げるVARフィロソフィーは”minimum interference, maximum benefit (最小限の干渉で、最大限の利益を)” ――。
だが導入されて1年半が過ぎ、選手や監督、サポーターはとこまでメリットを感じているだろうか。本当の問題はVARが有利/不利に働いた回数ではなく、その使われ方、そして判定の一貫性がないことにある。
リーズのパトリック・バンフォードはクリスタルパレス戦で鮮やかなゴールを決めた。しかしVARによって取り消された。オフサイドラインが引かれたのは、ボールを要求する際に広げた左腕だ。
時にVARはフットボールの全てを殺す。スピーディーな展開も、巧みな抜け出しも、華麗なループシュートも、ネットが揺れたときの歓喜も失望も。
我々はVARの話がしたいのではない。フットボールの話がしたいのだ。