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イタリアの“消えた天才”は今、何を? タバコ1日20本の酔いどれゴーラー、下ネタ連発テクニシャン…
posted2020/11/24 17:02
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Getty Images
セリエAの得点王が、人口300人弱の小さな山村にひっそりと暮らしている。
2002年の得点王、ダリオ・ウブネルのことだ。
ワインを作った葡萄の絞りカスから作られる度数キツめの蒸留酒、グラッパを愛飲しながらゴールを積み重ねた彼は“酔いどれのおっさんストライカー”として、当時広く愛された。
今でも日に20回、煙草に火をつける。現役時代と変わらない。
飲むわ吸うわのウブネルは、18年前のカンピオナートでユベントスのフランス代表トレゼゲとともに24ゴールを積み上げた。シェフチェンコ(ミラン)やデルピエロ(ユベントス)、ビエリ(インテル)やクレスポ(ラツィオ)といった名だたる一流FWたち皆が皆、ウブネルの後塵を拝した。
「FWばかりじゃない。ネスタ、テュラム、アウダイール、カンナバーロ、スタム……相手DFもバケモノだらけだったさ!」(ウブネル)
史上初のセリエA、B、Cで得点王
北部地方の弱小クラブ、ピアチェンツァに所属しながらタイトルを獲得したこと自体快挙だが、ウブネルは同時に史上稀に見る偉業も完成させていた。
20歳までアマリーグでプレーしていたウブネルが、3部プロリーグにあたるセリエC1で得点王を獲ったのは92年、25歳のときだ。4年後にはセリエBでも得点ランクのてっぺんに立ち、35歳でセリエA得点王になった。
ウブネルは、史上初めて“セリエA、B、Cすべてのプロカテゴリーで得点王を完全制覇”した傑物なのだ。
もし、ボールをゴールネットに放り込むことが一種の才能なら、ウブネルは天才中の天才に他ならない。
翌03年にはFWプロッティ(リボルノ)がウブネルに続いて世間を驚かせたが、彼らに続く偉業達成者は今もって現れずじまいだ。
幸か不幸か、稀代の名FWウブネルは強豪クラブと縁がなかった。