炎の一筆入魂BACK NUMBER
秋季キャンプも広島伝統の猛練習。
有望株3人の“超早出”は朝8時開始。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/11/18 07:00
今季の安部はサードを主戦場に自己最多の115試合に出場した。堂林、野間らとともに日南の地でさらなる打撃力アップを目指している。
「練習をやらせる」ではなく「一緒にやっている」。
実際にコーチ陣も「3人の中で安部は頭1つ2つ抜けている」と認める。そして今年は昨年とはまた違うアプローチで指導している。その練習メニュー発案者は石井打撃コーチだ。メニューの引き出しの多さに、東出コーチも「これまで出会ってきたコーチの中でも1番と言えるくらいの指導力、発想力、アイデアがある」と感服するほどである。
打撃コーチのトップに石井が立ち、似ている打撃論を持つ東出、迎両コーチがサポートすることで、指導にも絶妙なバランスが生まれる。3人の方向性がぶれないからこそ、指導を受ける選手も惑わない。
そんな「スーパー早出」には、どこか家族的な雰囲気すら漂っている。本格的な練習メニューが行われる右翼後方の室内練習場には、6人しかいない。ポールや練習道具の準備や設置は、コーチ3人が行う。最年長の石井コーチも率先して準備、後片付けをする。3選手が練習している横で、実際にコーチ陣が素振りをしながら考える姿もある。
そこからは「練習をやらせる」ではなく、「一緒にやっている」空気があるのだ。会話も打撃論だけでなく、侍ジャパンの話や契約更改の話などざっくばらんな内容とあって、選手の表情も自然と和らいでいくのだ。そこには、わずか1年で12球団屈指の攻撃陣を作り上げたコーチ陣の指導力と連携の高さが感じられる。
「今いる戦力が新しい戦力に……」(石井コーチ)
来季の広島は野手陣の上積みがほとんどなく、外国人野手の去就は現状では不透明な状況だ。加えて今年ドラフトで野手の指名は4位の日大三高の坂倉将吾捕手のみだった。
「今年戦ったメンバーが今年の成績を残せば優勝できるとは限らない。他球団もレベルアップしてくるだろう」
こう手綱を締める石井コーチは「今いる戦力が新しい戦力になれば。今年二軍を温めていた選手がどれだけ伸びてくれるか」と現有戦力の突き上げに期待している。それが野間であり、堂林であり、主力を脅かしつつある存在となった安部だった。
秋に流した汗は、春に大きな花を咲かせるためにある。堂林や野間が来季の“新戦力”となれば、広島攻撃陣はさらに厚みを増す。
明るい秋の日南で、広島の明るい未来到来を予感させた。