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シメオネ「お前ら、泣くんじゃねえ」。
CL決勝、守れなかった最後の命令。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2016/05/31 07:00
アトレティコの運動量は、シメオネの求心力によって維持されている部分が少なからずある。彼の退団も噂されているが果たして……。
延長に入ると、次々と選手がダウン。
2年前と同じ1-1のまま延長戦へ突入すると、疲労から脚を攣る選手が続出した。
101分にレアルのMFベイルがゴール正面のシュートを放ったとき、そのシュートコースには3人が壁となっていた。ベイルの左脚はその後固まった。
ここまで50試合以上を戦ってきたA・マドリーも、無傷ではなかった。13km以上を走破していたMFコケが、116分に担架で運ばれながら交代した。
5分後に倒れたMFカラスコは担架を拒否した。死闘を最後まで闘いぬくという気持ちは誰も同じだった。
クラッテンバーグ主審が延長後半終了の笛を吹くまで、マドリードの2チームはアドレナリン全開だった。
現役時代は寡黙だったジダンが完全に変貌。
今年1月、前任者ベニテスから急遽チームを受け継いだジダンは、絶大なカリスマを持つものの元来の内向的な性格と率いていたBチームの不調から、実際の指導力を疑問視されていた。
だが、かつての寡黙な天才司令塔は、トップチームの監督就任とともにチームと自己の性格の改造を試みた。
布陣を4-3-3へ固定し、戦術のキーマンとして中盤の底にカゼミーロを抜擢した。
ロッカールームでは、副官を務めていたアンチェロッティ監督時代以上に選手たちへ歩み寄り、話し合いをもった。「本心から望まなくとも、ロッカールームで大声を出すことも覚えた」と伊紙インタビューで語っていた。
サン・シーロに帰ってきたジダンは、PK戦を前に選手たちと輪を作り、勝負事の機微を説いた。孤高だった現役時代から一皮むけたジダンは、指導者として生まれ変わったのだ。
その輪からひとり離れ、アイスボックスに腰掛けて、集中している男がいた。無論、監督の了解は得ている。