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盤石のバルサとレアルの狂騒。
~4月2日クラシコで雌雄を決す!~
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byMutsu Kawamori
posted2016/03/19 11:00
英雄の命令には、どの選手も従うはずだ。
後任に選ばれたのはジダン。
ただし候補者リストの筆頭だったからではない。監督経験は'14-'15シーズンから指揮してきたマドリーのBチーム(2部Bリーグ)のみでたいした功績はなく、手腕はむしろ不安視されていた。また、技術や戦術のトレーニングとフィジカルトレーニングを統合する術を学んでライセンスを取得するスペインの監督たちに、フランスでのライセンス取得を選んだジダンは太刀打ちできないという声もあった。
しかし、ペレスを始めとする役員たちはこの世でジダンだけが持っている“強み”に賭けた。即ち、ファンにとっては14年前マドリーに9度目の欧州王座をもたらした英雄であり、選手たちにとっては少年時代の憧れという事実だ。
実際、ジダン効果は強く表れた。
たとえば1998年のワールドカップでフランス代表を優勝に導いたジダンの勇姿を14歳のとき目にしているC・ロナウドは、かつてないほど謙虚な態度で監督の指示に耳を貸すようになったという。ジダン就任直後の連勝を見た役員の間からは、「戦術やトレーニング方法ではなくリーダーのカリスマのおかげで強くなることもあるという極例だ」という声が上がったこともある。
加えて、ジダンが好むプレイスタイルが選手を刺激した。
「わたしの現役時代を知っている人はわかっているだろう。わたしが好きなのはボールを支配し、パスを繋ぐサッカー。ボールがないときはプレッシャーをかけて奪いにいく。相手に何もさせない。常に敵陣内でプレイするんだ」
自分は巧い、自分たちは強いと信じているエリートたちにボールを与えたら喜ぶのは当然のこと。
負け知らずで突き進むマドリーを見て、「バルサとの直接対決はもう一度ある。優勝の行方はまだわからない」と思うようになったファンは相当いただろう。
失速したレアルと隙のないバルサの差。
だが2月21日の第25節マラガ戦に引き分け、続く第26節アトレティコ戦に敗れたところで夢ははじけた。気持ちだけを高めても、チームとしての熟度と戦術のレベルが高い相手には敵わないことを思い知らされたからだ。
一方でバルサはというと、その間も順風満帆。ルイス・エンリケは'15年のFIFA最優秀監督に選ばれ、“MSN”と称される強力なワールドクラスの3トップを備えたチームは組織力と個人技の融合に拍車をかけ、3月3日のラージョ戦では'88年から'89年にかけてマドリーが作った「公式戦34戦無敗」というスペイン記録を塗り替えていた。