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森保一監督「私はボキャブラリーが多いほうではない」ブラジル戦大逆転劇を生んだ、”森保ノート”の中身とは…「“今日はメディアが80人”とかまで書く」
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木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAsami Enomoto
posted2025/12/31 11:00
NumberWebのインタビューに応じた森保一監督(57歳)
連載第10回で紹介したように、マツダでは今西和男総監督が社員教育に力を入れており、選手たちにサッカー日誌をつけさせていたからだ。森保がこう証言する。
「今西さんには『サッカー選手の前に立派な社会人であれ』とよく言われました。今西さんの指導が、今のメモの習慣に間違いなくつながっています。マツダ時代、成果や課題を日誌に書いてコーチに添削してもらっていましたし、人の話を聞いてメモを書く課題をよく出されていました。私は昔から自分の記憶力をよくわかっており、今もものごとを忘却してしまうことがあります(笑)。忘れてしまわないために、メモはすごく大切です」
メモ論は奥が深い。当初は忘れたときの備えが目的だったとしても、それを繰り返すうちに思考が整理され、深まっていく。言葉と言葉がつながり、新しい発想が生まれる。
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メモは思考の手助けにもなる。ブラジル戦に向けた練習中、森保にとって極めて大切なフレーズが脳裏に浮かんだ。
「練習中にふと『同じ目線で戦うのを忘れてはいけない』という言葉が頭に浮かびました。似たようなことを漠然と感じていたんですが、それがより言語化されたというか。ブラジルをリスペクトしすぎた言葉遣いになっていないか、それは選手に伝わるんじゃないかと、自分の言動を振り返りました。
過去の実績やFIFAランキングを見て相手を格上だと感じすぎ、その気持ちがプレーに表れるのが一番良くない。チーム心理がそうなったときに、どう引き締めるか。いろいろな考えが湧き上がってきました」
振り返ればドイツ、スペインを撃破したカタールW杯でもノートが重要な役割を果たした。
「カタールW杯のときには、『日本に不可能はない』という言葉が浮かんでノートに書きました。その言葉自体が私に『日本に不可能はない』と言い聞かせてくるような感覚です。
私はボキャブラリーが多いほうではないのですが、うろ覚えなことを言っても選手には伝わらない。自分の中から生まれた言葉を繰り返し言い続けるようにしています」
森保にとって、ノートはただの記録帳ではない。思考の触媒なのである。


