福本豊の証言「相手は初優勝でしょ？ 負ける気せんかった」広岡達朗のヤクルトはなぜ絶対王者・阪急に勝てたのか？ 弱気だった若松勉「0勝4敗もある」 

対するヤクルト・若松勉は「0勝4敗もある」

　自信満々に語る福本に対して、スワローズのリーダーである若松勉の言葉は対照的だ。

「戦前の印象としては、全然、勝てるとは思っていませんでした。それまで巨人がまったく歯が立たなかったし、阪急は黄金時代を迎えていましたから。1勝もできずに、“0勝4敗の可能性もあるかもしれない”とまで思っていましたね」

　あるいは、スワローズの司令塔である大矢明彦の場合はどうか？

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「いや、勝てるとは思っていなかったな」

　開口一番、大矢はそう切り出した。

「ただ、0勝4敗で負けるとは思っていなかったです。“なんとか一つか二つは勝てるんじゃないか？”、そんな思いだったと思います。あの年の日本シリーズは学生野球の関係で神宮球場が使えず後楽園球場からスタートしたんですけど、“絶対に後楽園球場に戻ってきたいな”と考えていました」

　大矢の言葉にあるように、日本シリーズ期間中、神宮球場では学生野球が行われていた。『明治神宮外苑七十年誌』（明治神宮外苑）には、この一件に関して、「学生野球の規定日程との関係で神宮球場を使用できなかったことは誠に残念であった」と記されている。

　一方、広岡はどう考えていたのか？　セ・リーグを制覇した翌日、10月5日の『東京新聞』に掲載されたインタビューにはこんな言葉が躍っている。

《阪急は日本一のチームだし、それだけの資格を持って出て来るのに比べ、ウチは初めての経験。胸を借りてぶち当たるだけ。作戦は秘密だが、同じ人間だから、勝負はやってみなければわからない。ウチの今のチームワークならある程度の期待はかけられる。》

　同じ紙面にはブレーブス・上田監督のコメントも掲載されている。

《初めてということはなんでも大変なことや。現場ばかりか、フロントを含めた人に心からおめでとうと言いたい。ヤクルトは、しっかりしたいいチームだと思うし、徹底して鍛え上げた広岡監督も立派だ。相手に不足はない。敵も変わる方がいいし、日本シリーズにふさわしい戦いをしたい。》

　シリーズ開幕直前、両監督は「舌戦」を繰り広げる。

「あれだけ選手がそろっていれば、監督は何もしなくてもやってくれる」（広岡）

「広岡さんはカッとなることを平気で言う。その手に乗っちゃ危ないんだ」（上田）

　1978年日本シリーズは、10月14日、後楽園球場で開幕する。

＜続く＞

#2に続く

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