「ベッツは毎日とんでもない努力してる」ドジャースを象徴する“天才”の知られざる裏の顔…ぶっつけ本番で“あの神プレー”が生まれた本当の理由 

　すべてを振り返り、讃えられるべきは立役者になったベッツの決断力、勝負強さ、そして身体能力か。一つ付け加えると、あのシフトの際、二塁走者のカステラノスの背後にいたベッツは三塁のカバーに走る動き出しをワンテンポ遅らせ、それゆえにフィリーズ側にも気づかれなかったのだとか。

「神様が私にある程度の運動能力を与えてくれたから、何とかできたんだと思う」

　ベッツはそう述べていたが、ここでの“遅れ”が意図的なものであったかははっきりしない。その答えはどうあれ、33歳の遊撃手は結果的に全力疾走での三塁ベースカバー、送球のキャッチ、タッチという3つの動きを一つのプレー中に見事に成功させてみせた。あるいは多少の幸運があったのだとしても、稀有なマルチタレントであるベッツだからこそ出来たプレーだったはずだ。

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　昨春、チーム事情ゆえに遊撃手にコンバートされた直後、ベッツの動きは明らかにスムーズではなかった。外野手として6度もゴールドグラブ賞を受賞した選手を不慣れなポジションで起用するのは得策ではないと批判の声も少なくなかった。しかし、時は流れ、大きく向上した今ではベッツの守備が話題になることはなくなった。本人が守備でも快適に感じていることは明白であり、プレーオフでのビッグプレーを決断できた背景に自身の能力に対する自信があったことは間違いないのだろう。

山本由伸ら投手陣を華麗な守備でサポートするムーキー・ベッツ　©︎Getty Images

今年3月のトレーニングの様子　©︎Nanae Suzuki

「ムーキーはこのオフ、“自分はショートをやる”という覚悟を持って臨んだ。冬の間ずっと練習して、今も毎日とんでもない努力をしている。野球界でも一番努力する男のひとりだよ。“取り憑かれている”レベルで自分を磨こうとしてる。ショートを守れることを、自分のためだけじゃなくチームのために証明したいんだ。それがムーキー・ベッツっていう選手さ。私は2年前からこう言ってる——彼はライトでも、セカンドでも、そしてショートでもゴールドグラブ賞が取れる男なんだってね」

　イーベルの証言は大袈裟なものではない。実際にドジャースの試合前、まだフィールドに誰もいないような時間帯からベッツが黙々と守備練習を重ねる姿はもうお馴染みになった。スーパースターがロハス、イーベル、クリス・ウッドワード一塁コーチらのアドバイスに静かに耳を傾け、反復練習を積み重ねる。大谷翔平や山本由伸、佐々木朗希の日本人トリオの活躍がチームを支えていることは言うまでもないが、ベッツのような姿勢こそが、ドジャーベースボールの真髄であり、ドジャースの強さなのだろう。

　大舞台でやり遂げた意表をつくビッグプレーは、偶然の産物ではなかった。丹念に積み重ねられた基礎練習から派生したものだったからこそ、“ぶっつけ本番”でも見事に成功したのに違いあるまい。