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「ベッツは毎日とんでもない努力してる」ドジャースを象徴する“天才”の知られざる裏の顔…ぶっつけ本番で“あの神プレー”が生まれた本当の理由
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杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGetty Images
posted2025/10/17 06:06
ゴールドグラブ賞・遊撃手部門のファイナリストに名を連ねたムーキー・ベッツ(33歳)。右翼手としては過去に6度受賞している
流れを掴みかけた状況で採用したバントという戦術は従来の“フィリーズ・ベースボール”からはかけ離れた策に思え、その選択にも疑問が呈されたが、それでもここでは真っ先に奇策を成功させたドジャースの内野陣を褒めるべきだろう。後にドジャースのディノ・イーベル三塁コーチに確認すると、やはり自軍の内野手たちを絶賛していた。
「『もし悪送球したら?』『もしバントしなかったら?』っていう“もしも”はいくらでもある。でも実際に相手はバントして、私たちはプレーを完璧に実行した。だから私はあのプレーをやり切った選手たちを本当に称えたい。正しいプレーだったし、やるべきことをやったということだ」
イーベルの言葉通り、リスクも小さくないプレーではある。相手チームの作戦がバントであると断定した上で、二塁走者を三塁で刺すのが唯一最大の目的。投球と同時に一、三塁手は猛ダッシュし、遊撃手は三塁、二塁手は一塁のカバーに動く。全内野陣が車輪のように動くことから“ホイールプレー”と呼ばれ、日本では“ブルドッグ”と呼称されるギャンブルシフトである。
練習は一回もしていない
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バントに対しては確かに有効だが、内野は完全にガラ空きになる。バスターに切り替えられた上でゴロを転がされたら対応はできない。メジャーではそもそもバントする機会はごく少ないため、このシフトを眼にすることも滅多にない。特に走者一、二塁の場面と走者二塁の場面では、タッチプレーが必要となり難易度は大きく上がる。驚くべきことに、イーベルによれば用意周到に思えたドジャースも実は「無死二塁でのホイールプレーは練習したことすらなかった」のだという。
「春季キャンプの時点からバント対応の確認はしてきたが、通常、“ホイールプレー”は走者一、二塁の場面を想定して練習する。フォースプレーだからね。二塁走者だけの状況では実際の練習はしていない。ただ、“フォースプレーではない場面ではしっかりとタッチする”ということは話し、確認はしてあった」
いくら口頭でのシミュレーションしてあったとはいえ、これほどのギャンブルプレーをプレーオフの大舞台で“ぶっつけ本番”で決めるというのはにわかには信じ難い。
ベッツとチームリーダーのミゲール・ロハスが後に述べていた通り、ドジャースは8月13日のエンゼルス戦でも“ホイールプレー”を成功させている。その際も無死一、二塁からロハス二塁手の音頭で二塁走者のマイク・トラウトを刺したものだった。マンシーは「“ホイールプレー”自体を今はほとんど練習していない」とも述べており、だとすれば“無死二塁で実行したことはない”というのはおそらく真実なのだろう。


