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「ケラモフとやらせろ、舐めんなよ」「お前ら、クレベルに勝てんのか」40代で迎えた全盛期…金原正徳に問う「なぜ格闘技を“やめられなかった”のか?」
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長尾迪Susumu Nagao
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2025/10/05 11:12
金原正徳は『RIZIN.44』でクレベル・コイケを圧倒。「影のフェザー級最強」「格闘技界の裏番長」という評価を裏付ける完勝だった
試合1週間前の“異変”「拳も握れなかった」
なぜ、立ち技での勝負を挑んだのか。その理由を知りたかった。試合直後の金原にへばりついて撮影を続けていたところ、あることに気が付いた。オープンフィンガーグローブを外した金原の左手に、バンデージが巻かれていなかったのだ。もちろん右手には、拳の保護のためのそれが厳重に巻かれていた。
「左手は拳も握れなかったから、バンデージをしなかったんです」
じつはこの試合の1週間前に持病のヘルニアによる痺れが再発し、左手に全く力が入らなくなっていた。だが、金原に欠場する選択肢は1ミリもなく、玉砕覚悟で戦うことを決意した。
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「試合当日の朝起きたら左手の力が戻っているとか、グローブつけたらとか、奇跡をずっと信じていたんですけど……。やっぱなかなか難しくて。千裕と最初に組んだとき、左手に全く力が入らなくて、打ち合いしかねえな、と。ローブローをもらって休みながら覚悟を決めて、よし、殴り合いだと」
力が出ない左手の状態を考えると、組み技を続けても自分の体力が削られるだけ。ならばスタミナがある序盤に打撃で勝負した方が、わずかながら勝つ可能性は高い。そう考え、とっさにプランを変更した。ローブローによるインターバルは1分もなかったはずだ。金原はあのわずかな時間に戦局を分析し、絶望的な状況でも冷静に勝ちへの道を探っていた。その結果が、無謀にも思えたストライカーとの“打ち合い”だったのだ。
思うに、金原が40歳を過ぎてもMMAの最前線で活躍することができた最大の理由は、この自己分析力と試合展開を読む力にあった。
試合の数週間前から海外で合宿を行う。これは自分のことを誰も知らない環境に身を置いて、「今の自分の立ち位置や状態を客観的に確認するため」だという。
「どうしても同じ練習相手だと、組む前から相手が及び腰になったり、遠慮したりするじゃないですか。もっとフラットな環境で、自分の実力を把握しておきたいんですよ」
「自分は、やっぱ持っていない選手だなって…」
鈴木戦の前にもタイで最後の調整を行った。しかし激しい練習を重ねすぎたこともあって、体が悲鳴をあげた。金原は未だに鈴木戦の試合映像を見ていない。なぜかと問うと、「見られないです。勝てなかった悔しさしかないので」と感情をあらわにした。
「今こう話をするだけでも、悔しさが思い出せるぐらい。痺れが出るまで調子はよかったし、手応えはすごくあった。自信もあった。本当にあの試合は勝ちたかったです」


